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コラム 政治・経済

2011年11月05日

気になる日本の進路

いままでほとんど止まっているようにすらみえたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉へ参加するかどうかという議論。ばたばたと焦りだして11月頭までには結論を出すのだそうだ。交渉に参加しても途中で降りることは可能であると政府は言う。何としても席につこうという野田内閣の方針からすれば、そうでも言わなければ反発を抑えることができないということかもしれない。

時間が迫ってきたせいか、議論も急に熱を帯びてきた。賛成派、反対派が集会を開いたり、デモをしたり、批判、反批判がネット上でも繰り広げられている。それぞれの立場にはそれぞれの主張がある。僕自身はTPPに参加したほうがいいと思っているが、反対論の中にも共感できる部分はある。

たとえば、「平成の開国」を追求する民主党に、農業をどうするのかというビジョンが感じられない、などというのはその通りだと思う。自民党が農業の集約化を目指してきたのに対し、民主党は農家への戸別所得補償をマニフェストに掲げてきた。「努力して生産してきた農家」に市場価格で賄いきれないコスト部分を払おうというのである。この政策でいちばん疑問なのは、農家を集約したいのか、それとも現状でいいと考えているのかというスタンスの問題だ。それに食糧自給率(カロリーベースで約40%)を50%に引き上げるというが、どうやってそこに持っていくかのロードマップがない。これでは農家にしても後継者をどのようにすべきか迷ってしまうだろう。

それにこれまでの農政で言えば、片方で高率関税を課してコメを守りながら、国内では減反政策というのでは、いつまでたっても農業の構造改革は進まない。もちろん日本の湖面コメがタイのコメと国際市場で競争できるとは思わないが、そこで考えるべきなのは、タイのコメと競争する必要はないということだ。おそらく競争すべきなのは、国外で作られる日本のたとえばコシヒカリなのである。そうであれば、何とかして競争することは可能だろうと思う。それにもしコメの自給率はほぼ100%に保つ必要があるのであれば、関税ではなく税金で守るという選択肢、要するにコメ農家に補助金を支給するという選択肢もあるのだろうと思う。

おそらく政府として最もまずい選択は、票田欲しさに口当たりのいいことばかり強調して、補助金をばらまき、将来の姿を示さないことだ。過去にも、農道の整備に何兆円ものカネをつぎ込み、結果的に農業の基盤整備にも、構造改革にもつながらなかったことがある。この愚を繰り返してはならない。

そのために必要なことは、まさに政治の改革なのだと思う。TPPについて見れば、民主党内、自民党内でも意見がまとまっていない。本格的にこれをまとめようとすれば「党が分裂する」という声もある。都市票を地盤にするのか、農村票を地盤にするのかというそれぞれの立場もあるとは思うが、自分の将来ではなく日本の将来を考えるのが国政にあたる政治家だと思う。日本の将来にとってプラスと考えられることでも、一部の国民にとっては痛みになるかもしれない。それは政治家が説得しなければならないのである。

福島第一原発の事故で各地に散らばった放射性物質。除染した土などの処分で、国にすべての責任を押しつけようとする動きもある。もちろん費用などは国が負担してもいいとは思うが、とりあえず除染した土などは、その自治体で保管しておくしかない。よその土地に持っていこうとすればそこで必ず反対運動が起きて、頓挫するからである。そうなったら除染した土の行き場がないから除染ができないということにもなりかねない。最終的にどうするかはともかく、中間貯蔵施設は当該の自治体で用意するしかない。それをするのがまさに国政にあたっている政治家の責務だと思うが、実際には多くの議員は地元の要望を政府に押しつけているだけのようにみえる。

これと同じように、TPPについての議論も、国の将来にとって何が必要なのか、それは世界とどういう関係になることなのかを、できるだけ見通すことが必要だ。

ある人が面白いことを言っていた。日米和親条約はものすごく「不平等」な条約だというのである(最近、NHKではそれほど「不平等」ではないという番組をやっていた)。ただその人の論点は、いわゆる関税自主権とかそういうことではない。和親条約には「日本に来たアメリカ人をどう扱うかは書いてあるが、アメリカに行った日本人をどう扱うかは書いてない」からだという。なるほどその時代には、日本人が鎖国を破って外国に行くという発想はなかったのだから、その根源的な「不平等」に気づかなかったのかもしれない。

TPPの議論でも、あまりに現状にとらわれすぎて遠い将来の姿を見失わないようにしなければ、それこそ将来に禍根を残すことになりかねない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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