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コラム 政治・経済

2011年07月05日

リーダーという「資質」

3月11日の東日本大震災以来、リーダーの在り方が注目されている。当然のことながら首相、そして東京電力。リーダーは何をなすべきであって、何をなすべきではないか。そしていつどのような形で責任を取るのか。

菅首相を支持するかどうかはいろいろな意見があるだろう。しかしリーダーとして見た場合はどうにもいただけない。まず課題の設定がころころ変わる。ちょうど一年前には唐突に消費税の引き上げを言い出した。そして初秋の代表選では「強い経済、強い財政、強い社会保障」と言った。11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)では、これまた唐突にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加を検討すると言い出した。そして大震災が発生し、原発が事故を起こすとエネルギー政策を見直すとして、いまでは再生エネルギー買い取り法案の成立を辞任の条件にした。さらに次の国政選挙では原発が争点になるとして、「原発解散」まで示唆している。

政治家に限らず、リーダーの最大の責任は、組織の課題を考え、優先順位をつけて大事なものから手をつけることである。当然、自分一人で問題を解決できるわけではないから、組織を説得して動かさなければならない(限られた腹心の部下を使うか、各部署から選抜された特命チームを使うか、それは課題の内容と組織の掌握の度合いなどで決まってくるだろう)。

どちらにせよ人を動かすためには、課題の「つまみ食い」は厳禁である。部下が混乱する。せっかく課題解決に向けてやってきた仕事を放り出してまた新しい課題に取り組まなければならない。もちろん別の人が新しい課題に取り組むことになれば、自分の仕事がリーダーによって評価されるかどうかが心配になる。これによってやる気が削がれれば、組織として大きな損失である(菅首相の周囲にいる官僚たちが次々にやる気をなくしていると言われるが、これは民主党政権のみならず、日本という国にとって大きな損失であるということを果たして首相は理解しているだろうか)。組織を構成する人員を生かせない人間は、動機がたとえ崇高なものであったとしても、リーダーとして失格である。

リーダーとしてさらに重要なことは責任である。たとえ部下が誤ったとしても、その最終的な責任はリーダーにある。その覚悟がリーダーになければ部下から信頼されることはない。責任を取ってくれるリーダーのためなら、相当なことをするのが組織の人間である。逆にすぐに責任を部下に負わせ、自分は逃げるリーダーであれば部下は当然のことながらついてこない。

気をつけなければいけないのは、実は言葉の端々に表れるリーダーの「責任に対する考え方」が部下の気持ちを左右するということだ。昨年の参院選で菅首相が消費税の引き上げに言及し、「自民党も提案している10%」と言った。この参院選では消費税引き上げに触れたことで民主党が大敗したとされているが、そうではないと思う。むしろ菅首相が「自民党も引き上げを言っているのだから」という逃げ、あるいは言い訳を国民が鋭く感じ取った結果ではないだろうか。

民主党はこれまで言ってきたことについての責任を回避しているようにすら見える。予算の項目を組み替えることで20兆円ぐらいの財源はすぐに捻出できると言ってきた。いつの間にかそれがうやむやになって、いまや増税の大合唱だ。もちろん政権を取ってみたら、今までとは勝手が違うことは理解できる。しかし選挙前の目論見と大きく違ったのだから、正直であろうとすれば、その国民に向かってそれを説明しなければならない。

民主党が責任を取りたがらない体質は昨年秋の中国漁船と巡視船の衝突事件で、これ以上はないくらいあからさまになった。中国政府の強硬姿勢(中国にいた日本人の拘留も含めて)にたじろいだ結果、那覇地検が外交の状況を考えて中国人船長を釈放した。そして当時の仙谷官房長官は「那覇地検の決定を諒とする」という訳のわからない言葉で決着をつけたのである。

外交的には大きな失点となったと思うが、同時に国民はいかにも民主党らしい責任逃れをしたと感じ取ったと思う。結局、仙谷官房長官はいろいろな失言をあげつらわれて失脚するが、弁護士らしく言葉で逃げ道を探しているうちに、追い詰められたということもできるだろう。そしてこの問題については、菅首相はまったく目立った発言がなかった。

この二つを取ってみても、菅首相がリーダーとして相応しくないことは十分に理解できる。東京電力も似たようなところがあるが、これに対して、原発事故やら津波で非難した自治体などでは首長が活躍している。英エコノミスト誌なども、日本の民主主義の強さは地域にあり、という記事を書いた。彼らは、被災した住民の前で逃げられない。県や国(あるいは東電)に対してきちんと要求をしないと住民を納得させることはできない。その一方で、非難する住民の要望を聞き、他の自治体と交渉し、できるだけコミュニティを維持しながら、復旧に向けて努力している。リーダーとして必要なことを彼らはしているのである。

非常時になればリーダーとしての資質が確実に問われる。器に合わないリーダーを頂いて、最も不幸なのはその組織に属している人々である。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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