2016年02月15日

現場を活かすマネジメントをしている会社に学ぶ

 突然ですが、もし皆さんが、とある老舗の温泉旅館の再生をお願いしたいと頼まれたらどうしますか。ぱっと思いつくのは、まずはその旅館に乗り込み、現場のスタッフからたくさんヒアリングをし、それを元に新しいビジョンや実施計画を策定し、発表。そのあとの現場のオペレーションの陣頭指揮をとる、というやり方でしょう。しかし、これではおそらく失敗します。なぜなら、現場のスタッフは、ただやらされているだけだからです。

 リゾート運営で有名な株式会社星野リゾートが2005年に手掛けた、伊豆の温泉旅館の再生の事例から、私たちはどうすれば現場スタッフが活きるのか、そのヒントを学ぶことができます(この様子は2006年、NHK「プロフェショナル仕事の流儀」でも紹介されました)。

 当時40億の負債と60名の従業員を抱えていたいづみ荘(現在は星野リゾート「界 伊藤」)。星野リゾートの社長、星野佳路氏が心がけたことは「いかに現場の人たちを巻き込むか」でした。

 彼は独自に顧客データを分析し、再生のキーとなる顧客層を分析、そのターゲットを絞り、新たなコンセプトを設定するのですが、そのやり方に工夫があります。ここでいきなりそのコンセプトを提示するのではなく、現場の代表スタッフに最初からディスカッションに参加させ、「いづみ荘が満足させることのできる顧客層はだれか」というテーマを与え、各自に考えさせます。そして彼らの答えを元に「熟年女性のマルチオケージョン温泉旅館」というコンセプトを導き出すのです。またそれを全社員に発表するときにも、ただ伝えるのではなく「いづみ荘クイズ」というクイズ形式にして、みなでそれを考えるというワンクッションをおいて、この新しいコンセプトを共有しました。

 また現場のオペレーションも、トップが新たなやり方を考え、それをマニュアル化して訓練すれば、早く均一化したサービスが提供できたかもしれませんが、あえてそれをせず、現場の人たちに考えさせました。そうすることで、彼らにはやらされ感がなくなり、自分たちで考えた自分たちのもの、という自覚が生まれたのです。
      現場の人たちを巻き込むために・意思決定に早い段階から参加させる ・一定の方向性は示しながらも、答を導き出すのは彼らというスタンスをとる ・「彼ら自身のもの」という感覚を大事にする

 こうした数々の「現場の人たちを巻き込む工夫」が、多くの旅館の再生に一役買っていることは間違いないでしょう。目標を設定する際に一番大切なことは、本人がそれを受け入れていること、すなわち腑に落ちていること。崇高な理念を設定すること以上に、ここが組織活性化の大きな分水嶺となるのです。

 昭和の時代は、トップダウンで上が決めたことに下が黙って従っていた、それである程度はうまくいっていたのかもしれませんが、本当に人の力を引き出すという意味では、星野氏がとったやり方のほうが合っている気がします。現場を活かすマネジメントとは、一人一人が自分ごととして考え、自発的に動けていることが大前提。そのためには、「自分たちで考えた自分たちのもの」という感覚が必要不可欠なのです。

 このテーマもいよいよ最終回となりました。次回はまとめ編として「現場を活かすマネジメントを成功させる3つのヒント」と題してお送りします。