2003年04月05日

こだわりがある人は、成功しない

 「ひとつのことをつきつめないと成功しない」

 私はずっとそう思っていた。しかし、先日、中川さんというCMプロデューサーの方にお会いして、私の考えは見事に打ち砕かれた。


1.興味の向くまま仕事をしているうちに...
 
中川さんは現在フリーでCMプロデューサーをしているが、CMの制作だけでなく、企業の広告戦略全体を行ったり、海外スターのCM出演マネジメントをやったりと、実に幅広く仕事をしている。中川さんの仕事を一言であわらすことはできない。「何をしているのか、つかみどころのない人」というのが私の第一印象だった。

 中川さんはドキュメンタリー番組のディレクターになりたくて、大学を出て番組制作会社に入るが、予算も少ないし、真実のみでは作り得ないという理想と現実とのギャップに悩まされる。そこで、ひょんなことからテレビCMの仕事をしたところ、予算はあるし、自由なことができるとわかってのめりこむ。

 しかし、やがてテレビCMの制作だけでは飽き足らず、もっと大きな広告戦略全体に興味が広がり、製品のキャンペーン全体を学ぶために転職する。その後、会社を立ち上げてプロデューサーとして仕事経験を積み、独立して今に至っている。
 通常、CMの仕事といっても非常に細分化されている。シナリオを考える人、スポンサとの折衝、全体を統括する人、出演者のマネジメントをする人など、多くの人が関わらないと仕事が進まないのが普通だ。

 しかし、中川さんは自分の興味が広がるままに仕事をシフトしていくうちに、いつのまにか一人ですべてが把握できる、大変貴重な存在になってしまった。ほかに同じことができる人はほとんどいないので自然と彼に仕事が集まる。

 著名な海外スターの出演マネジメントの仕事もそうだ。あるCM制作を通して中川さんと仕事をした海外エージェントが、彼の幅広い経験を見込んで、日本での有名スターのCM出演契約一切を取り仕切る代理店を彼に任せたのだ。


2.経験の組合せは、才能にも匹敵する
 
中川さんの話を聞いて私は目からうろこが落ちた。5年、10年かけてひとつのことを極めないと大成できないと考えていた私にとって、中川さんの生き方はまったく逆だった。中川さんはひとつの仕事にこだわっていないのだ。

 もちろん、企画なら企画だけ10数年と経験を積み、その道の大家になるという手もある。しかし、それには才能が必要で、ライバルも多く、容易ではないだろう。しかし、ちょっと発想を変え、中川さんのように自分の仕事の分野で様々な仕事を経験してみる。そうすることで、全体が見渡せる貴重な存在になれるのだ。このやりかただったら誰にでもできる。人生を切り開くのは「才能」だけではなく「経験の組み合わせ」でもそれは可能なのだ。


3.自分の経験は、あなただけの「オリジナル」商品
 
そういう目で、自分のこれまでやってきた仕事を振り返ってみよう。あなたと同じ経験を積んできた人はいない。ということは、あなたはもういまのままで、十分貴重な存在なのだ。中川さんのように、同じ業界内でシフトしていくのもひとつだが、まったく違う分野に飛び込むのもいい。

 私は、職業人としての7年はシステムコンサルタントとしてロジカルな世界に生きてきたが、いまは翻訳、講演、執筆といった正反対のクリエイティブな世界に生きている。まったく違うことをするのは難しいと考える人が多いが、クリエイトすることが得意な人達は、得てしてロジカルな思考に弱い人が多い。そんな中で、7年間のコンサルタント業界の経験はとても役立っている。クライアント向けの提案書でつかんだノウハウは、出版社向けの本の企画書に生かされていたりする。

 そう考えると、経理の人が畑違いの企画部門にいっても緻密さを発揮できるし、営業が得意な人が企画部門にいっても、理屈が先行する人たちの中で、軽いフットワークを生かした現場のアイデアを拾えるはずだ。

 「やったことがないからできない」ではなく「これまでやってきた仕事の考えを、どう生かせるか」、そういう発想が必要だ。


4.こだわりのある人は、ユニークになれない
 
これからは、個性を出すのが難しい時代だ。ひとつの仕事にすがりついていても、世の中がこれだけ早く動くと、それと一緒に共倒れしかねない。システムコンサルタントの仕事は、担当するソフトウエアの機能を修得しなければならないが、そのソフトが売れなくなったとき、自分も同時に売れなくなるのと似ている。

 時流が早い今こそ「こだわらないことで個性を出す」生き方ができる。仕事でも人間関係でも、手を握っていると、次のものが入ってこないのだ。中川さんもひとつの仕事にこだわっていない。実に自然体で、肩に力が入っていないのだ。私もそんなスタイルを目指したいと思う。

 もちろん、ただやみくもに仕事を変えていけばいいというわけではない。自分なりの興味、切り口を持って次々とチャレンジしていけば、必ずあなたはユニークになれる。

 日本語で「彼はユニークだね」というと、ちょっと皮肉ったバカにしたニュアンスもあるが、英語のuniqueは、「唯一の、他に類をみない」というのが元々の意。

 さあ、あなたはどんな方法でユニークな存在になりますか?