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2006年07月05日

僕がやったんじゃない

 以前、公園で犬の散歩をさせていたら、小学5年生くらいの子どもたちが芝生で野球をしていた。そしてそのそばに、ガムやチョコの包み紙が捨ててあった。
 「ねえボク、これ、犬が食べちゃうから。ちゃんと拾わないとダメだよ」
 「ボクじゃないもん」
 その返事を聞いて、僕は一瞬固まった。
 「確かに、ボクじゃないかもしれないけど、一緒に遊んでる友達の誰かが捨てたんだよ。拾ってね。はい、ありがとう」
 僕にうながされ、その子はしぶしぶゴミを拾った。僕は思った。
 (まったく、自分がやったんじゃなければ片付けないなんて、今の子どもって自分のことしか考えてないよな)

 そしてつい2週間前のこと。
 我が家はテラスハウスで、家が5棟つながった長屋形式で、ゴミ出し場は共有である。そこがちらかっているのに気づいてはいた。不燃ゴミ置き場に、きちんと分別されていないペットボトル、お惣菜のプラスチック皿が散乱しているのだ。指定の袋を使わず、コンビニ袋に入れてあるゴミもある。あきらかにうちを除くほかの4棟の誰かが、ルールを守らずにゴミを出している。
 「まったく、出したヤツがちゃんとしないとダメだよな」そう思って、その日は見過ごした。

 翌朝。
 ゴミは昨日のままだ。おまけに「きちんと分別しないと回収できません」なんてシールまで貼られている。
 「誰だよ、まったく。ルールを守れないやつは」僕はまた、そのままやり過ごした。

 そしてまた翌日。ゴミはまだそのままだ。その日、事件は起こった。
 犬の散歩から帰り、玄関で中に入ろうとすると、なにやら家のそばに止まった車から見知らぬおばさんが出てきて、こっちをみている。そしていきなり僕に向かってこう言うのだ。
 「あれ、お宅のゴミ置き場ね。犬がやったのか、ちらかってるわよ」
 「はあ…」
 そのとき、僕が思ったこと。
 (誰だ、あのおせっかいなおばさんは?)
 (おいおい、何で俺に言うんだよ。俺はちゃんと出してるよ)
 (うちのりゅうは、そんな悪いことしないよ)
 僕は適当に返事をして、そのまま家に入った。僕はこうつぶやいていた。
 (僕がやったんじゃないよ)

 そしてまた翌朝。
 犬を連れ、そのゴミ置き場をやり過ごそうと思ったときだ。急に僕の中で、この前の公園での男の子のセリフと僕のつぶやきが重なったのだ。
 (僕がやったんじゃない)
 そして思った。
 「あ、俺ってあの子たちと同じだ」

 僕は、自分のことは自分でちゃんとするし、そのことには自信がある。でも、ほかの人の後始末までする気はない。だって、その人が責任もってするのが筋でしょう。しかし、この見ず知らずのおばさんに注意され、僕ははからずも自分の度量の狭さに直面してしまったのでした。

 もしかして、僕って心が狭いんじゃ。たとえ自分が散らかしたゴミじゃなくても、気づいたらきれいにしようっていう気持ちがあったら、もっといい人になれるのかも…。

 そして翌朝、僕は意を決して自宅から黄色い不燃ゴミ用の袋(買うんですよ)を片手にゴミ置き場に行き、ちらかっているゴミを袋に入れて片付けた。これでこの数日間、ずっとモヤモヤして気持ちがようやく晴れた。

 世の中には、次の3つの人たちがいます。
 1.自分の後始末も自分でやらない
 2.自分の後始末は自分でやる
 3.人の後始末も自分がやる

 1の人は困りものですが、ほとんどの人は(僕を含めて)2でしょうね。しかし、3に行くには、少し人間的に大きな器が必要なのかも。僕はまだまだ修行が足りません。
 昔の日本には、3の心を持った人が多かったのかもしれません。田舎とかに行って、そんな振る舞いが自然と板についているおばあさんなんかを目撃してしまうと、もう僕はしびれてしまいます。そんな人がたくさんいたら素敵な街ですね。でも一番いいのは、1の人がいなくなることなんですが…。
 通りがかりの見ず知らずのおばさんに、自分の価値観を大いにゆさぶられた事件でした。

川村透

川村透

川村透かわむらとおる

川村透事務所 代表

「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…

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