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2005年03月05日

海に散ったウィンドサーファー

 3月2日の朝。いつも見ている朝のワイドショーの最後に、こんなニュースが飛び込んできた。
 「昨日、ハワイでガンの闘病生活を過ごしていた元プロウィンドサーファー、飯島夏樹さんが亡くなられました…」

●ウソだろ!奇跡を信じていたのに
 あわててネットで彼がつづっていたブログを開いてみた。2月19日で終わっている。
 「そうか…ついに時がきたんだな」

 テレビや新聞で目にした方もいるだろうか。飯島夏樹。プロウィンドサーファー。ワールドカップに出場し、世界を舞台に戦い続けた男。

 彼と僕は、実は同じ高校の同級生である。僕が留学して帰国し、留年して入った学年に彼はいた。全然知らない中ではなかった。一時期、彼は僕のいたバスケット部で練習に参加していたし、バイク好きで一緒に走ったこともある。彼は女の子にもモテた。また、体育祭では一緒に応援団長を務め、僕が赤組、彼が白組の団長だった。応援合戦の軍配は、接戦の末、彼の白組に上がり、僕の赤組は同窓会杯を取った。

 卒業後は会う機会もなかったが、風の噂で彼がウィンドの世界で活躍していることを聞き、書店でウィンドサーフィンの雑誌をみては彼の記事を探したりしていた。彼はその後、グアムで観光客相手のビジネスを展開、これも成功する。そして4人の子どもにも恵まれ、幸せの真っ只中にあった。

 『彼も頑張ってるな。よしオレも』と勝手に人生のライバルのように思っていた。その彼が亡くなった。38歳だ。肝細胞ガンだった。180センチはあった恵まれた体格。誰が見ても病気とは無縁の、屈強な体の持ち主だった。

●テレビで久しぶりに再会した彼は…
 ちょうど今年の2月頃、彼をテーマにした番組が放映され、久しぶりに彼の姿を見た。筋肉は落ち、以前のたくましさはなかったが、高校時代と変わらないものがひとつだけあった。それは人なつっこく屈託のない笑顔だ。真っ白な歯を見せて、ニコニコしながら「川村さん」と言ってくれた、その笑顔はそのままだった。彼の表情はとても穏やかで、何の暗さもなかった。とても余命半年と宣告されているとは思えなかった。

 彼の場合、はじめて腫瘍が見つかったとき、肝移植を考えたが、それもできないと言われ、うつ病とパニック障害になったと言う。そのショックは察して余りある。しかし、家族に支えられ、自分の運命を受け入れ、自分なりの「死の哲学」を作っていったように思う。テレビを通して聞こえてくる彼の言葉のひとつひとつが心に突き刺さった。

 「今日も活かされている」「わりいなあ、オレだけ先に天国っていういいところにいっちゃって」「すべてが感謝しかなくなる」こういう時期の人の言葉って、本当に中身が詰まっている。

●「闘病記を書いてたら滅入ってしまったが、小説なら書けた」
 彼が言っていた言葉のなかで、とても興味深かったのがこの言葉だ。確かに、闘病記の類は本人が病気と戦っている真の姿には違いないが、読んでいるほうも、書いているほうも気が滅入る。しかし、小説という形でハッピーエンドの物語を書き、その中に自分が入り込めれば、死に対する不安も和らぐのではないか。実際、彼も「書き始めたら、うつも癒えた」と言っている。

 小説は想像の世界だ。しかし、その想像の世界で楽しいイメージ、良いイメージを書き出すことで、気持ちが変わり、ものの見方が変わる。

 僕はよく、講演で『10年後、自分の夢がすべて叶った場合の自分のプロフィールを書いてください』と頼んだりするが、飯島君の言葉で、やはり、書くということには力があるのだと確信した。それも「こうなりたい」とか「今の苦しさ」を書くよりも「すでにそれが実現した」「うまくいった」ときのイメージを書き出すのだ。これはやる気だけでなく、人に生きる力さえ与えてくれる。

 今回、飯島君は新しい死の迎え方を多くの人に伝えてくれたのだと思う。つねに明るく、ユーモアたっぷりにブログをつづり、これまでの自分の人生を下地に心あたたまるハッピーエンドの小説を書き続ける、というスタイル。

 僕も正直言って死ぬのは恐い。急に病気になって余命宣告をされたらどうなってしまうかわからない。しかし、飯島君のスタイルは僕にもできそうだ。これなら慌てることなく、自分らしさを最後までもてそうな気がする。

●死に際からいまをイメージする
 
もちろん誰だって自分がこの世からいなくなるなんて考えたくもないだろう。でも死は確実に、誰にでもいつかはやってくるイベントだ。ならばその死に際から目を避けるのではなく、あえて『自分ならどうしたいか』を考えることで、心の準備もでき、最後まで無駄なく過ごせるのではないか。いま、僕もこうして書きながら、自分の最期の迎え方のイメージを持つことができた。僕もブログや小説を書き、何かメッセージを発信しながら旅立っていきたい。

 「問題は起きてから考える」的に、リスクヘッジの下手な私たち日本人だが、つねに「もし起きたらどうするか」を具体的にプランしておくことが大事だと思う。自分の死に方についても。皆さんは自分の死に際のイメージを持っておられるだろうか。そこから発想をいまに戻していくと、とても潔い人生が送れる気がする。いまの自分にいるもの、いらないものが見えてくる。ちなみに僕はいまのところ、かつて白州次郎さんが言ったように「葬式無用、戒名不用」がいいと思っている。

 飯島君の遺骨は、本人の希望でハワイの海にまかれたそうだ。きっと天国でも波と戯れているに違いない。飯島夏樹君のご冥福を心よりお祈り申し上げます。ありがとう。

PS:飯島君の追悼番組があるようです。
3/13(日)16:00~フジ系列 『天国で逢おう 追悼編(仮)』
ご興味ある方はどうぞご覧ください。

<今月のレッスン:いまあるものを喜び、自分が活かされていることに感謝しよう。>

川村透

川村透

川村透かわむらとおる

川村透事務所 代表

「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…

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