ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム 教育

2017年06月23日

「ライブ配信」の魅力と危険

 先日、あるお母さんから相談を受けました。「中学2年生の娘が家出した」と言うのです。幸い娘さんは2日後にみずから帰宅し、「心配かけてごめんなさい」と謝ったとのこと。不安で胸がつぶれそうだったお母さん(もちろんお父さんも)はひとまず安堵したそうですが、そもそもなぜ家出したのか、ここが大きな問題でした。

 娘さんはインターネット動画サイトの「ライブ配信」で知り合った男性に会いに行ったのです。「ライブ配信」と言われてもおとなにはピンとこないでしょうが、「ニコニコ生放送」とか、「ツイキャス」などという言葉は聞いたことがあるかもしれません。これらのサイトでは動画のライブ配信、インターネット生放送を行っています。会員が自分の動画をリアルタイム、つまり生中継で流し、たくさんの人が視聴できる仕組みです。ちなみに動画を配信する人は有名人から一般人までさまざま、やろうと思えば中高校生でもできます。

 先の娘さんはインターネット動画サイトを見ているとき、ある男性のライブ配信に興味を持ちました。視聴者の話を聞き、そこから「ピンときた言葉」を毛筆で書く、という動画だそうです。たとえば「友達関係で悩んでいる高校生」の視聴者が自分の状況を伝えると、その内容に合った言葉、「海を渡る者に光が差す」とか、「真実は心に宿る」とか、そういった言葉を毛筆で書いてくれる。文字がリアルタイムで画面に映し出されると同時に、男性が励ましの言葉を熱く語る、こんな感じです。

 娘さんは当初、男性と視聴者とのやりとりを見ているだけでした。生中継なので、ときどきハプニングも起きますが、それもまた楽しかったそうです。こんなふうにライブ配信を見ているうち、自分も何か言葉を書いてほしくなり、男性にメッセージを送りました。動画サイトにはコメントやメッセージを送受信する機能があり、リアルタイムで互いの意見交換ができるのです。自分の悩みを伝えると、すぐに男性が毛筆で言葉を書いてくれました。さらに、「がんばってるな!」、「スゴイぞ!」などと励ましの言葉を言ってくれたのです。一連の様子はほかの視聴者も見ています。当の男性だけでなく、ほかの視聴者からの励ましのメッセージも表示され、娘さんは感動で胸がいっぱいになりました。

 こんな状況が数カ月つづき、娘さんはライブ配信する男性にどんどん惹かれていったのです。動画を通じて相手の顔も名前もわかっている、毎日見て人柄も知っている、だから「直接会ってみたい」という気持ちが抑えられなくなってしまったのです。とはいえ、「ライブ配信する男性に会いに行きたい」などと親に言えば、反対されるのは目に見えています。動画視聴そのものを「禁止」されることもあるでしょう。ひとりであれこれ考えた末、親に黙って男性に会いに行くことにした、これが家出の理由だったのです。

 私たちおとなからしたら、「見知らぬ男に会いに行くなんて!」、「インターネットで配信される動画の何がそんなにおもしろいんだ?」などと、理解不能かもしれません。けれども今の子どもたちにとっては、「今、この瞬間につながっている」という感覚は刺激的で、とても楽しいものなのです。また、テレビのように「プロの手で作られた」ものではなく、一般の人が自由に、気軽に生中継する動画には独自のおもしろさがあります。一方的に視聴するのではなく、自分もそこに参加して「場を作る」、「仲間を作る」ことができるのは、子どもにとって大きな魅力なのです。

 こうした仕組みを理解した上で、どう危険性を教えていくか、おとなにはまたあらたな課題が突き付けられています。スマホ全盛時代の今、子どもを取り巻く状況は刻々と変化しています。より深い関心を持ち、おとなも積極的に勉強してほしいと思います。

石川結貴

石川結貴

石川結貴いしかわゆうき

ジャーナリスト

家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに、多数の話題作を発表している。 出版のみならず、専門家コメンテーターとしてのテレビ出演、全国各…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。