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2014年11月10日

早くも曲がり角を迎えた固定価格買取制度

 再生可能エネルギーにより発電された電気を固定価格で買い取る制度が2012年7月から実施されました。しかし、この度九州電力はじめ4つの電力会社が買い取りを当面停止する事態に陥りました。今回はこの問題についてふれてみます。

■固定価格買取制度
太陽光、風力、バイオマス、中小水力、地熱の5種類の再生可能エネルギーによって得られる電気が対象で、電力会社が買取る費用は電力料金に上乗せされます。固定された価格で一定期間買い取りが保証されていることが一番大きな特徴です。たとえば、平成26年度ですと10kW以上の太陽光発電、いわゆるメガソーラの場合は1kWhあたり32円(税抜き)で20年間買い取りが行われます。
買取価格は発電方法や発電規模によって異なり、初期費用やランニングコストを考慮して買取価格は定められています。事業者がある程度の利潤が得られるような価格設定になっています。

■相次ぐ電力会社による買取の停止
買取制度がスタートする前の電力設備では、受け入れ可能な太陽光や風力による電力の量は、電力会社の総発電量の5%程度といわれていました。電力会社では設備投資をして、再生可能エネルギーによる電力の受け入れ量を増やすことに努めていますが、急には受け入れ量の増加は難しい状況です。
実際に昨年4月、北海道電力では40万kWの受け入れ可能量に対して160万kWの申し込みがありました。実は、買い取り制度のスタート時から北海道電力以外の電力会社も地域により受け入れを断るケースが少なからずありました。
本年9月25日には、九州電力は固定定価格買い取り制度に基づく契約の受け付けを中断しました。さらに、北海道、東北、四国、九州電力の4社は本年10月1日より新規契約を当面は停止すると明らかにしました。

■原因と今後の対策
電力需要の大きい東京や大阪、名古屋等の大都市圏では、再生可能エネルギーの系統連系は比較的容易にできます。しかし、電力需要の小さい地方では、導入は容易ではありません。
不安定な再生可能エネルギーを既存の電力網に導入した場合、風力発電や気象変化などで再エネ発電の急激な出力低下が生じ、供給エリアごとに確保している調整力が不足する可能性があります。逆に、電力需要を上回る再生エネルギーの発電があった場合は、電力供給が過剰になる可能性があります
さて、ドイツが固定価格買取制度を実施するにあたり、多額の税金を投入して送電線や変電設備の整備等を行いましたが、日本ではそのような準備を行わず、いきなり固定価格買取制度を開始したところに無理がありました。今後、日本では揚水発電等による需要と供給の調整体制強化を行うとともに、出力変動に対応できる計測・制御システムの構築、変電所や送電施設の増設等の対策を、国が税金を投入して早急に実施することが望まれます。

■明確な目的と十分な準備
日本の固定価格買取制度は十分な準備を行わず、また明確な目的を持たずに開始されたきらいがあります。
固定価格買取制度を実施するにあたり、日本はドイツをモデルとしました。ドイツでは1990年に東西ドイツは統一されましたが、遅れている旧東ドイツ地域の産業の育成のために、太陽電池の工場を旧東ドイツに集中的に立地して、固定価格買取制度を実施しました。その結果、太陽電池の生産量と太陽光の発電量のいづれもドイツは世界一になり、地域産業の発展と雇用の拡大を果たしました。また、初期から農地を使った大規模太陽光発電を可能としました。特に旧東ドイツ地域を中心に農村地帯でメガソーラ発電による現金収入が得られ、経済的安定に寄与しました。
現在、デンマークでは電力の40%を風力で賄っており、将来は50%以上を目指しています。EU全体で電力を融通し合っていますので、風が吹かずデンマークで電力が足らないときは他国から買電することができ、逆に余ったときは他国に売電することもできます。人口が560万人のデンマークの再生可能エネルギーは、人口が約5億人のEUの容量の大きい電力網に依存して成り立っているのです。現在、EU全体で考えますと電力に占める風力の割合は約7%です。なお、四方が海で囲まれた日本では地理的、政治的環境から海外から電気を買うことは考えられません。
デンマークは国内の風力機器産業の育成の目的で再生可能エネルギーの導入を積極的に推進しました。その結果、現在ではデンマークは世界の風力機器の65%のシェアを獲得しています。

■今後の展望
電力会社の相次ぐ買取中止措置に直面し、日本政府は再生可能エネルギーの固定価格買取制度の見直しに着手しました。たとえば、太陽光からの買い取り費用を抑えたり、太陽光に代わり安くて安定した発電が見込める地熱発電からの電気を優先的に購入させるなどの方策を検討しています。ただ、地熱の利用は計画から実現までのリードタイムが一般に10年以上と長いなど、大幅に導入するには様々な課題が多くあります。

原発の停止による火力発電の燃料代に年間約3億5千万円、発電コストの高い再生可能エネルギーの買い取りのために年間約2億7千万円の国民の支出増という試算があります。この度の固定価格買取制度の破綻を冷静に受け止め、今後のエネルギー政策をしっかりと決めていくべきではないでしょうか。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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