ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム 環境・科学

2012年12月25日

TPPと農業・食の安全

TPPは国論を2分する大きな問題となっています。今回は日本農業や、食品添加物、残留農薬基準、遺伝子組み換え食品などの問題を中心にTPPについて述べます。

■TPPでメリットを受ける業界

日本がTPPに参加した場合の影響は明らかです。輸出型製造業や輸入品を扱う業界、また貿易に携わる業界には多くのメリットが期待されます。また、海外で生産する企業もメリットが大きいです。一方、安い外国の農産物の輸入により農業などは不利益を被る事になります。

自由貿易の推進においては規制緩和のほか、種々の制度が国際標準に従うことが求められます。日本独特の商習慣や制度を持つ業界も、不利益を被る可能性があります。ただ、TPPの内容は既に決まっているのではなく、今後参加国によって協議されて決まります。

■TPPの鍵は米国
TPPに日本が参加した場合、参加国のGDPの約80%は日本と米国が占めます。TPPは米国が日本にどのような要求を行ってくるかが最大の鍵です。

過去に日本と米国の2国間で毎年行われてきた日米経済対話の中で、米国から日本に規制緩和や制度改革の要望が出されています。過去の日本の改革において、米国からの要望が影響しているのではないかと考えられている事例をいくつかあげてみます。
  1997年 独占禁止法が改正され、持株会社が解禁
  1998年 大規模小売店舗法が廃止され、大規模小売店舗立地法が成立
  2002年 健康保険において本人3割負担を導入
  2003年 郵政事業庁が廃止、日本郵政公社が成立
  2004年 労働者派遣法が改正、製造業への派遣が解禁
  2007年 新会社法が施行され、外国企業による日本企業の買収が容易に

そのほか、最近の日米対話で米国から出されている要望には、NTTの改革、健康保険における海外保険会社の活用、カルテルや談合への対応強化、公共工事の慣行の改善、自動車市場開放などがあります。日本がTPPに参加することになりますと、米国からの要望が一層強くなる可能性があります。

そもそも企業経営の基本理念は、日本と米国では大きく異なります。端的に表現すれば、日本型の経営では企業が社員や消費者の利益も考え、さらに地域社会とともに発展していくことを目指しますが、米国型の経営では、株主利益を最優先して短期に利益を得ることを目指します。

米国は、同じルールの下に企業を置いて競争させて、最大の株主利益を追求させる社会とも表現できます。この米国型の考えが日本に入って来ますと、農協や生協、共済などの存続も困難になります。

■TPPと安全基準の緩和の要求
米国では約3000種類の食品添加物が認可されていますが、日本では832種類です。食品添加物の表示も日本ほど詳しくはありません。米国はこれまで、日本の食品添加物規制が米国産加工食品の輸入を制限していると指摘しています。TPP交渉においても、米国がこのような主張をする可能性があります。

日本においては遺伝子組み換え食品に対する表示義務がありますが、米国が安全だと科学的に証明している遺伝子組み換え食品に対する表示義務は違法であるとして、米国から廃止が求められる可能性があります。

日本の残留農薬基準は世界一厳しい水準で、すべての農薬成分について作物ごとに基準値が設けられています。残留農薬の基準は日米で大きな隔たりがあり、この基準の違いを貿易の大きな壁だと考える米国は、農薬の使用規制緩和を要求してくる可能性があります。

収穫後の農産物に使用する殺菌剤や防カビ剤等のポストハーベスト農薬の使用は、日本では一部を除き原則禁止されていますが、米国はポストハーベスト農薬使用規制の緩和を要求してくる可能性があります。

■TPPと農業
日本では食糧自給率を上げようとする政策が進められています。しかし、TPPで関税の撤廃が進みますと海外から廉価な農産物が流入し、日本の農業は大打撃を受ける事になります。その結果、食糧自給率が後退し、地産地消、有機農業、ロハス、スローフードなどの活動にも大きな影響を与えることになります。

TPPにより日本の農業が衰退しますと、耕作放棄地が増加し、里山の維持も難しくなります。農地は耕作地としての機能のほかに、洪水の防止、土壌浸食の防止、地下水の涵養、水質保全、大気浄化などの機能を持ちます。農地や里山生態系への大きな影響が懸念され、TPPは国土のあり方や自然環境のあり方をも大きく変える可能性があります。

TPPは米国が日本にどのような要求を行ってくるかが重要です。場合によっては、日本が築き上げてきた食の安心・安全などに影響を与える懸念があります。TPPに関して日本はこれから重要な時期をむかえることになりますが、本稿がTPPを考える上で参考になれば幸いです。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。