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コラム 環境・科学

2007年03月22日

その花の時

映画「不都合な真実」が大ヒットし、地球温暖化がかつてないほど話題となったこの冬は、奇しくも関東地方では2月末までの積雪がゼロという観測史上初の記録が”樹立”されてしまうほど”寒くない冬”でした。

本来ならば、一年中で最も寒さが厳しいこの時期と、人生の寒風に曝される時、私が必ず思い出すのは、梅の花です。大学時代、一般企業への就職活動を一切せず、アナウンサーだけを志して養成所に通い、必死で努力しましたが、結果はすべて不合格。苦しんでいる私を友人が「観梅」に誘ってくれて、鎌倉へ出掛けました。どんよりと曇った空の下、寒風に震えながら、真夏の賑わいが嘘のような暗い海を見ていると、絶望感がさざ波のように押し寄せてきて、私はうつむきがちに歩いていました。「着いたよ」という声に顔を上げると、梅の花が夜空に星を撒き散らしたように咲いています。

梅は、葉の無い、枯れ木のような枝に、ある日突然、花を咲かせます。まだ他に咲いている花も無く、草も枯れ果てた水墨画のような景色の中で、冷たい風に吹かれながら、小さくとも凛として咲いている梅の花…。その姿を見ていると、今の寒さがどんなに厳しくとも、必ず春が来ると信じられる気がしました。「時が来れば、突然、花開く。人生の希望もこういうものかもしれない」。

第一志望の文化放送が、専属契約アナウンサーを募集という情報が飛び込んだのは、それからまもなくのこと。日本初の女性プロ野球キャスターとしてデビューできたのは、桜の花が咲き始めた頃でした。

その後、環境ジャーナリストとなり、社会人入学した桜美林大学大学院で、生態学の世界的権威、三島次郎先生から教えを頂く中で、「植物のライフサイクル」を知りました。

植物の年間サイクルには、「花」・「葉」・「休眠」の時期があり、どれが一年の始まりであるかは植物の種類によって異なるというのです。現在、一般的な桜ソメイヨシノは、花から始まるサイクルで、花が咲くと直後に葉が伸びて光合成を行い、次の年の花芽準備のために養分を蓄え、それが終わると葉を落として休眠。つまり、葉で終わるライフサイクルです。

これとは逆に、梅は花で終わるライフサイクルを生きています。まず最初に葉が伸びて養分を蓄え、十分に力をつけたところで葉を落として花芽を枝に送り出し、冬の寒さに耐えながら、最後に花を咲かせるのです。

人間の設定した四季に当てはめれば、梅は一年のうちで最初に咲く花のように見えますが、梅にとっては花が最後で、この後、梅は休眠に入ります。一ヶ月以上経ち、桜の花が咲き始める頃に葉を伸ばす梅は、実はもう次の年を生き始めているのです。

因みに、桜も梅も同じバラ科の植物なのですが、その生き方は正反対。でも、桜も梅もすべての花は、ある一定の気温以下の寒さを一定期間体験したのちに、気温が上昇して暖かくならないと咲くことができません。昨今のように、地球温暖化による気候変動で、気温が下がらないまま冬が終わってしまったり、今年のように咲き出した直後に雪が降ったりすると、植物は自分の花の時がわからなくなってしまい、”狂い咲き”ということに・・・。

植物は皆、花を咲かせる時期によって、自分のライフサイクルを組み立てています。花の時がいつになるかによって、花芽を準備する時や実を付ける時が自ずと決まってきます。その花の時が花それぞれであるように、人生の時もまた人それぞれです。

暖かくなって、外出したくなり、他の花々も一斉に咲き始める春に、人の頭上で見上げられながら咲く桜。「花見」といえば桜を指すほど、桜は春の女王です。一方、梅は、一年中で最も寂しく、寒さの厳しい時を選んで咲きます。だからこそ、春遠からじと感じさせてくれる、人生の冬をも耐えられるほどの希望をくれる梅の花には、「観梅」のため、敢えて寒風の中に人を出掛けさせるほどの力があります。

それに、花の少ない時期なら、実を付けるための受粉に必要な虫を、他の花々に奪われる心配もなく、一つ一つの花に確実に実りを得ることができるのです。寒さにさえ耐え抜けば、まさに「人の行く裏に道あり、花の山」です。

ライフサイクルは、植物だけでなく、ほとんどの生物が持っていますが、高等生物になるほど複雑で、個体差、いわば個性の違いが大きくなります。梅と桜、どちらが良いかではなくて、自分の時に自分の花を咲かせたいと思います

村田佳壽子

村田佳壽子

村田佳壽子むらたかずこ

環境ジャーナリスト

桜美林大学大学院修士課程修了。元文化放送専属アナウンサー。1989年環境ジャーナリストの活動開始。現在、明治大学環境法センター客員研究員、ISO14000認証登録判定委員、環境アセスメント学会評議員、…

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