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コラム 環境・科学

2012年09月25日

新しい電力網、スマートグリッド

 昨年の原発事故以降、日本の電力の将来に関して、脱原発、電力自由化、発送電分離、再生エネルギー利用の促進など、様々な議論がなされています。どのような方向に進むにせよ、これから日本では一層の節電や省エネが必要です。今回は電力の有効利用につながるスマートグリッドについて触れてみます。

■スマートグリッドとは
 スマートグリッドとは賢い電力網(smart grid)を意味し、電力網にIT技術を導入して情報の通信や制御を行い、電力利用を最適化する次世代の電力網です。スマートグリッドという言葉は、2005年にEU委員会が発表した技術開発計画で初めて用いられました。その後、米国のオバマ政権がグリーン・ニューディール政策の柱の一つとして位置づけたことで注目され、広く用いられるようになりました。

 スマートグリッドには、次のような事項が含まれます。
(1)再生可能エネルギー発電の利用
(2)電気自動車導入促進
(3)スマートメーターの設置および活用
(4)送配電系統の近代化投資

■スマートグリッドの世界と日本の動向
 スマートグリッドは多様な概念を含みます。電力事情はEU、米国、日本、それぞれ異なっており、スマートグリッドに取り組む状況も自ずと違ってきます。

 米国では、次の点に主眼がおかれています。
(1)電力の安定供給
(2)送配電網の近代化
 電力の自由化と発送電分離の実施と引き換えに、米国では停電がしばしば発生します。日本では停電がおきれば、どの範囲が停電しているか電力会社は直ぐに把握できますが、米国では停電している地域から電話連絡がないかぎり、停電地域を把握できません。送電網を近代化し、停電の発生を抑制することが急務という状況です。

 EUでは、次の点に主眼がおかれています。
(1)再生可能エネルギーの導入促進
(2)複雑な送電網の整理
 欧州では風力発電、太陽光発電等の再生可能エネルギーの利用が進んでいます。再生可能エネルギーで発電された大量の電気の系統連系、すなわち既存の電力網への接続には、まだまだ克服するべき課題が沢山あります。また、欧州では多数の国の間で電力を融通し合っていますので、電力網が複雑になっており、問題が生じております。これらの問題の解決にスマートグリッド事業が進められています。

 日本では、次の事が大きな課題となっています。
(1)電力利用およびシステムの効率化による節電やピークカット
(2)原発事故対策と再生可能エネルギーの普及
 日本では既に大口の需要家の電力使用状況を電力会社がリアルタイムで監視するシステムが整っており、停電がおきてもその地域が直ぐに分ります。原発事故の影響による電力需給の逼迫への対策や、今後増加すると予想される再生可能エネルギーによる電気の系統連系のスムーズな実施のために、スマートグリッドの開発と整備が期待されます。

■スマートグリッド関連技術
(1)系統連系技術
 再生可能エネルギーのような分散型の電力であり、かつ不安定な電力の系統連系の量が増えますと、電力品質の維持のために逆潮流の上昇対策、電圧および周波数変動対策の他、系統運用の管理や保護・保安対策が必要となります。

(2)蓄電池技術
 再生可能エネルギーを有効に利用するためには、優れた蓄電池の開発が必要です。大規模蓄電池としてNAS畜電池が既に実用化していますが、分散型での利用、特に家庭での利用にはむいていません。充電密度の高いリチウム電池の大型化の開発が進められていますが、耐久性の向上やコストダウン、十分な安全性の確保が今後の課題です。

(3)IT技術
 電力の計測や監視のためのスマートメーターの設置、遠隔操作や制御するスマートグリッドのシステムの構成など、IT技術は重要です。発電所から発送電網、需要家にいたるまで総てがITで結ばれ管理・運用されます。 

(4)エネルギー管理システム技術
 スマートグリッドの機能を高めるために、たとえば家庭での電力使用の効率化も併せて進める必要があります。HEMS(ホームエネルギー管理システム)は、家庭におけるエネルギー管理を支援するシステムで、住宅内のエネルギー消費機器をネットワークで接続し、稼動状況やエネルギー消費状況の監視や自動制御などを行うものです。対象機器には家庭用太陽光発電、燃料電池、電気自動車、スマート家電、蓄電池などが含まれます。同様にBEMS(ビルエネルギー管理システム)によりビルにおけるエネルギーの管理や制御を行い、エネルギーの効率的利用を実現します。

 さて、スマートグリッドの構築には10年、20年と時間がかかりますが、日本におけるスマートグリッド構築費用として2030年までに最大6兆7千億円が必要と経済産業省の試算があります。スマートグリッドの技術の裾野は広く、電気、機械、IT分野におけるビジネスチャンスが開けるものと期待しております。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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