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コラム 環境・科学

2012年03月23日

放射能と農業

大震災と原発事故から1年が経ちました。被災地の一日も早い復旧・復興をお祈り致します。原発事故で広範囲に飛散した放射性物質により、農業も大きな被害を被りました。今回は、放射能汚染を受けた二つの農作物のケースについて、その原因と対策を考えてみます。

※今回のコラムで述べるセシウムは、いわゆる放射性のセシウム137を指します。厳密には元素のセシウムは多数の種類(同位体)があります。

■お茶の汚染
原発事故の後に、荒茶もしくは製茶の一部から基準値を超える放射能が検出されました。お茶は摘み取った茶葉を蒸して揉んだ後、乾燥させたものを「荒茶」、荒茶を販売用に加工したものを「製茶」と呼びます。

放射能汚染の原因として、次の2点が指摘されています。
(1)茶の木はセシウムをよく吸収する。
(2)生茶葉を乾燥して荒茶にすると、放射性物質の含有量は見掛け上、
 新芽の状態の約5倍になる。

(1)について
まず、窒素やリンと並ぶ三大肥料として「カリウム」がありますが、植物はカリウムをよく吸収します。セシウムとカリウムはともにアルカリ金属のグループに属し、互いによく似た性質を持つため、植物はセシウムもよく吸収します。(※詳細はコラムVol.16『放射線から身を守る方法』の【放射性物質を避ける食物】の項をご参照ください)植物のなかでも、特に茶の木はカリウムとともにセシウムをよく吸収する性質を持っています。

茶畑のセシウム濃度は本来低く、土壌からの吸収はあまり考えられません。茶の木の古葉に付着したセシウムが葉面から吸収され、新芽に移動するものと推定されています。ちなみに、セシウムをよく吸収する植物の他の例として、きのこ類を上げることができます。

(2)について
植物の組織は、水分が80%ぐらいを占めます。農作物を乾燥させますと、水分や揮発性物質が蒸発して取り除かれますが、セシウムなどは蒸発せずに残ります。そのため、生茶葉が乾燥され荒茶になると、1kgあたりのセシウム含有量は見掛け上、新芽の状態の5倍程度になります。新芽の茶葉の段階で暫定基準値以下の放射能含有量であっても、荒茶になると基準値を超えてしまう事があるのはこのためです。乾燥加工されて出荷されるために、暫定基準値を超えてしまった食物の他の例としまして、切干大根や干しシイタケなどがありました。

もう直ぐ新茶のシーズンです。原発事故から1年経過した本年こそ、セシウム濃度が下がることを期待致します。

■米の汚染
昨秋、暫定基準値を超える新米が見つかり、出荷規制が行われました。植物に含まれる成分濃度を予測する数値として「移行係数」が使われます。例えば、土壌の放射性セシウム濃度が5000ベクレル/1kg(土壌)の場合おいてに、移行係数が0.1のとき、米に含まれる放射性セシウムは500ベクレル/1kg(米)と推定されます。

このような予測数値のもと、昨年は放射能濃度が5000ベクレル/kg以下の土壌で作付け行われました。しかし、一部の地域の米から予想を超える放射能が見つかりました。その後調査や研究が進み、高い放射能が検出された原因が分かって来ています。例えば、次の様な要因が上げられます。

(1)規制値超えの米が生産された土壌では、カリウムを含む肥料が不足していた。
 セシウムの吸収を抑制する働きをもつカリウムの濃度が低かった結果、
 予測数値以上のセシウムが米に吸収されてしまった。

(2)田を覆っていた雑草、稲わら、落ち葉などの有機物に降着したセシウムが、
 稲の根に吸収された。

(3)作付前に十分に耕していなかったことで、表層近くに降着したセシウムを
 稲が吸収してしまった。

(4) 水田に供給する山から流れる水に、山で降着したセシウムが含まれていた。

場所によっては、上記の要因が二つ以上重なったケースもあるようです。

調査・研究結果を元に的確な対策が取られ、今年の秋の収穫では汚染米が出ないことを期待致します。
  
■土壌汚染と除染法
地上に降着したセシウムの一部は雨水で流され、一部は土壌に含まれます。粘土質ではない畑などの土壌は通水性がよく、セシウムは比較的よく水に流されます。逆に粘土質の土壌の中にセシウムは比較的よく吸収されます。ただ、粘土質にはセシウムが強く吸収されますので、濃度は濃くても根から吸い上げられる量は少ない傾向があります。土壌における放射性セシウムは、基本的には時間とともに減少していきます。一番大きな要因は水とともに除去されることです。

原発事故発生後、大学や公的研究機関で放射能汚染防止、除染法等について精力的に研究が行われています。汚染された土壌の改良や対策法として、ゼオライトなどの吸着剤を加えることや、カリウムを十分に与えることが有効ではないかと言われております。

ゼオライトは天然に存在する無害な物質で、小さな穴が無数に開いています。この中にセシウムが強く吸着して、取り込まれます。セシウムのように細孔を多数もつ身近な物質の例として、シリカゲルや活性炭があります。次に、植物は栄養分のカリウムと間違えてセシウムを摂取しますので、土壌に十分にカリウムを与えておくとセシウムの吸収を抑制する事ができます。

これらの方法を実施するためには十分な検証を行う必要がありますが、有効な対策が早期に実現する事を期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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