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コラム 環境・科学

2009年12月25日

温暖化対策の切り札CCS

 各国の首脳が集まりコペンハーゲンで開催された地球温暖化問題に関する「COP15」が、具体的な事は何も議決されず先週閉幕しました。これは、この問題の解決の困難さを表していると思います。来年以降の各国の一層の努力に期待したいと思います。

 さて、去る9月の国連総会で鳩山総理は、日本は1990年レベルと比較して25%の温暖化ガスの削減を果たす意向であることを表明しました。このような中、二酸化炭素の排出の削減を図るCCSという技術が、マスコミや報道でよく取り上げられています。CCSとは「Carbon dioxide Capture & Storage」の略で、二酸化炭素の回収貯留という意味です。

 実は、私が国の研究所にいた時にこの技術の研究開発に取り組んでおりました。今から20年ぐらい前の話です。日本はCCSの研究において世界を大きくリードしています。先日、私はある大手機械エンジニアリング会社を訪問しましたが、待合場所のホールにCCSの紹介・宣伝のパネルが多数掲げられていました。いよいよCCSが実用化の段階に入ったと強く感じた次第でした。

 CCSが世界規模で導入され始めますと、すぐに5兆円、10兆円という市場規模になります。CCS技術は、特に先端技術が必要という訳ではありません。既存技術のシステム化によって構成される新規技術です。このCCSの中に、新たなビジネスの「種」が沢山あるものと思います。今回はこのCCSについて紹介いたします。

【大量の二酸化炭素に挑戦する技術】

 炭や石油、天然ガスなどの化石エネルギーの使用により発生する二酸化炭素を回収・処理して大気中に排出しなければ、温暖化の進行を抑制できます。といっても、ガソリンの燃焼による自動車から出る二酸化炭素の回収、また都市ガスやプロパンガスの使用などで家庭から出る二酸化炭素の回収を行うことは、現実問題としてほとんど不可能です。

 しかし、日本では二酸化炭素の約30%が火力発電所から、10%以上が製鉄所、石油コンビナート、セメント工場などの大型工場から排出されており、これらの固定大量発生源から二酸化炭素を回収することは容易です。二酸化炭素はアミンという吸収剤を利用すれば、排出される混合ガスから簡単に分離し回収できます。
 回収した二酸化炭素は20℃程度ですと60気圧の圧力で圧縮すれば液化できます。液化された二酸化炭素は一時的な貯蔵や、処理するための輸送において取り扱いが容易になります。

 二酸化炭素を回収するためには費用がかかりますが、例えば天然ガスの火力発電所からの場合は、電力の発電原価の12%程度で済むという試算結果もあります。問題は、こうして回収した大量の二酸化炭素をどのように、どこに処理するかということです。

【日本の提唱、二酸化炭素を地球に返そう】

 石炭や石油、天然ガスの化石エネルギーは、本来は地中に埋まっていたものです。それを掘り出してエネルギーとして燃焼させると二酸化炭素が発生します。逆に考えますと、回収した二酸化炭素を大気中に放出せずに地中に返せば、地球温暖化の防止になります。この方法は二酸化炭素の地中貯留法と呼ばれています。

 貯留する場所としては、帯水層、廃油田、廃ガス田、廃坑などがあります。帯水層とは地中深い場所で水を多く含んだ地層を指します。帯水層中に二酸化炭素を圧入し、水の中に溶け込ませます。こうして地中に貯留した二酸化炭素は、かつて石油、石炭、天然ガスが長く地中に存在していたように、長期に安定して貯留できます。

 二酸化炭素の地中貯留法の中で特に有力な帯水層への貯留法は、日本の科学者たちによって本格的に研究され提唱された方法です。二酸化炭素の地中貯留法は日本では国家プロジェクトとして2000年から2004年にかけて研究開発が行われました。地下深くの帯水層に二酸化炭素を実際に注入し、様々の実験データを取得しました。この結果、地中貯留法の有効性が実証されました。その成果を基に、現在、日本が世界に呼びかけて、地中貯留法を国際協力で研究を進めようとしています。アメリカ、中国、ロシアのように国土が広い国々では、二酸化炭素の地中貯留は極めて有力な方法になるでしょう。

【大量の二酸化炭素を吸収する母なる海】

 海は地球の表面の71%を占め、その平均の深さは3800mもあります。この海の中に大気中に存在する二酸化炭素の50倍もの量の二酸化炭素が溶けています。今もし人間が二酸化炭素の排出を止めれば、大気中の二酸化炭素は徐々に減少していきます。それは、海がゆっくりと二酸化炭素を吸収してくれるからです。炭酸水でも分かりますように、本来、水は大変よく二酸化炭素を溶かして吸収します。

 温暖化を防ぐために二酸化炭素を大気中に放出せずに、直接海に吸収させる海洋隔離法が研究されています。例えば、回収した二酸化炭素を液体状にして大きな船で運び、海中に徐々に放流し二酸化炭素を海水中に溶け込ませる方法です。
 また、液体状の二酸化炭素を放流せずに、3700mより深い海底の窪地に隔離する方法も研究されています。深海底の窪地に置かれた液体の二酸化炭素は徐々に海水中に溶けていきます。国土は狭いですが、周りが海に囲まれており、特に直ぐそばに8000mもの深さの日本海溝が存在する日本では、二酸化炭素の深海隔離法は地位理的に好都合な方法になるかもしれません。

【CCSの展望とビジネスチャンス】

 二酸化炭素の大幅な削減にはCCSの応用は避けられません。2008年の北海道洞爺湖サミットではCCSの国際的な推進が謳われています。もし世界全体の火力発電所にCCS技術を利用すれば、世界の約30%の二酸化炭素排出の削減になり、その費用は毎年20兆円以上になります。そのような状況になれば、巨大な世界市場が誕生します。

 皆様も是非ともこのCCS技術の動向に注目して下さい。予測されるCCSの大きな市場の中に新たなビジネスチャンスがあるかもしれません。ご期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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