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コラム 人権・福祉

2005年06月01日

白馬に乗った王子様なんていない

人と接していて、あまりいい気持ちのしない会話もある。
夫ノブのことをほとんど知らない人から「いいご主人ね」と言われたり、結婚について「ご主人はよく思い切ったね」という言葉に悲しい気持ちになってしまう。
それは言外に「ハンディを持った女性と結婚したなんて偉い」という意識を感じてしまう。

これは一般にはわかりにくいかもしれないが、受ける側は、微妙なニュアンスを敏感に感じ取ってしまうのだ。だから、いつも返事に困ってしまう。実は内心では「ノブは別の女性と結婚して失敗していたかもしれないし、私が他の男性と結婚して幸せになっていたかもしれない。それを<いいご主人がいたから幸せになれた>というのはヘンな気がする。

「ふたりだから幸せなのに」と思っている。でも「いえ、ホントは夫は意地悪なんですよ」などと言ったら、単なるひねくれ者になってしまう。それに確かに私にとっては世界一の夫なので「ええ、幸せです」と答えておくことにしているのだが…。

ノー天気な夫は、ただ自分が褒められていることが嬉しいらしく、妻の心の機微にまで思いを馳せない。世間的には優しい理解のある夫が車椅子の妻を包みこんでいて、その手の平で妻が精一杯の努力をしているというステレオタイプにしたいみたいだ。

こういうことも愉快な会話ではない。がそれよりも、人と接していて一番つらいのは車椅子に乗っているというだけで、腫れ物に触るようにされたりすることだ。

「コーヒーに砂糖を入れますか?」

 例えば、こんなことがあった。講演後、主催者と帰りの電車の時刻までの間に、喫茶店に入ったときのこと。 コーヒーがくると、主催の男性が「ひとみさんはお砂糖を入れますか」と、私にではなくノブに聞いた。本人は目の前にいるのに…。なんだか子供扱いをされたような気持ちになった。こういうことがあると「車椅子は一人前じゃないの?」と、つい悲しくなってしまう。

また友人と出かけたときのことだ。
私自身の携帯電話を買って、書類に自分の名前を書いて手続きをしていた。
使い方でお店の人に質問をしたら、その人はただ黙ってついてきて私の横にいる友達に説明しだした。私は「え、どうして?」とおもいながら、横で聞いているしかなかった。

このような例を日々感じながら生活していくことは、
ハード面のバリア(階段等)以上に精神的に打ちのめされた気になる。

 ところが、この5年ずいぶん変わってきた。
障害者を半人前ではない、一人の大人として見られるようになってきたようだ。

一般の人が、かまえず障害者に接するようになってきた。とても気分が楽だ。もちろん、全くなくなったわけではないし、行く地域により人の温度差があるのは事実だが、私の想像以上に早く生き易くなった。口の悪い夫は「ひとみの押し出しが強くなって、周りが怖気づいただけじゃないか」とひどいことを言うが、そんなことはない!

理由はいろいろあるが、高齢者が増え、ハンディのあるお年寄りがドンドン外に出るようになったこと。それがマーケットの対象として無視できない存在になってきた。また、障害者が社会の中で、病人はなく職業人になってきたこと。世間がそれを認めるようになってきたこと、など。

障害者に対する接し方は<慣れ>があるのかもしれない。

15年前は聞いたこともなかったような「バリアフリー」という言葉が、最近では毎日のように新聞やテレビから伝えられてくる。それほどまわりの意識が高くなったのは嬉しい。

鈴木ひとみ

鈴木ひとみ

鈴木ひとみすずきひとみ

バリアフリーコンサルタント (UD商品開発とモデル)

1982年ミス・インターナショナル準日本代表に選出され、ファッションモデル等として活躍するが、事故で車椅子生活に。自殺を思うほどの絶望の淵にいたが、恋人や家族の愛に支えられ生きる希望を見いだす。障害者…

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