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コラム 人権・福祉

2009年06月01日

ふしぎな本との出会い

 私が初めて本と接したのは、いつだったのか? たぶん幼き日に母親が、なんらかの童話の本を読み聞かせたのだと思う。それは『桃太郎』か『サルかに合戦』だったのか、いまとなっては確かめようがない。

 ここで一つ、私のヒミツを明かしましょう。健常な方たちにはあり得ないことでしょうが子どものころ、マンガ本を読んだことがないのです。世代的には『少年サンデー』『少年マガジン』が全盛期の世代なのですが、そのマンガ本を私の不自由な手では、めくれない現実でした。

 ところが唯一、読破したマンガ本は30代になってから書見台{しょけんだい}を使って、どうしてドラマの原作を読みたくて『東京ラブストーリー』(柴門ふみ)を読んだ。

 主人公・リカの生き方に、ドラマにはない感動を覚えた。この原作を読んだことが、私なりに得たものは大きく、プロの物書きに近づけた不思議なチカラになっている。何を得たのかは、企業秘密としておこう。まるで迷路のように出会えた本が、見えない土台に似たチカラとなっている。
 ただ普通の本なら書見台を2分に一回程度ページをめくれば済むのに、マンガは30秒に一回になり、全五巻を読み終えたときには指先が腫{は}れあがっていたことは恥ずかしくも、なつかしい。
 それを機に、柴門ふみ作品は全てコレクションしている。いままで誰にも知られていない私の宝物だ。

 以前、柴門さんはインタビューにこう答えている。
 テレビで見たので記憶に頼るしかないが、趣旨としては、なぜベストセラーが描けるのかという問いに「わたしは自分が書きたいものを描いているだけです。ただ不思議なことに10年に一度くらい世間の流行が、わたしの作品と重なって読者の多くの皆さんに支持してもらえるんです。ねらったベストセラーなんて、それは本物ではないんじゃないかしら」と。

 吉川英治の小説『宮本武蔵』の中に「あれになろう、これに成ろうと焦るより、富士のように、黙って、自分を動かないものに作りあげろ。世間へ媚{こ}びずに、世間から仰がれるようになれば、自然と自分の値打ちは世の人がきめてくれる」と弟子を諭すシーンである。
 これは有名な一節だ。武蔵が、はるかに富士を仰ぎながら、ふらふらと思いの定まらない弟子に、富士のごとく悠然とした武士になれと例えている。
 先行きの見えないことばかりの現代に、見ることすら出来ない新型ウィルスまでが、はびこる奇奇怪怪な世界を笑い飛ばして生きるのも、また楽しいものだ。 

中村勝雄

中村勝雄

中村勝雄なかむらかつお

小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家

現在、作家として純文学やノンフィクション・異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。 <小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞のことばより> 車イスのうえに食事…

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