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2013年07月25日

中小企業の人材育成

中小企業には、組織が小さいゆえの良さがあります。業務上の面倒な手続き、担当部門でも分からなくなるほど沢山の複雑なルール、部署間の心理的な距離や軋轢などは、大企業にとっては宿命のようなもので逃れることは難しいわけですが、中小企業では(多少はあるとはいえ)大企業ほど悩ましい状態にはなりません。せっかくそのような中小企業の良さがあるのに、大企業がやっていることを単純に真似るのは、もったいない話であり、危険とも言えるでしょう。

人材育成も同じこと。大企業にはたいてい、立派な教育研修体系があります。新入社員から幹部に至るまで階層別研修があり、職種別にも実務的なスキルを習得するための研修が定められ、運用されています。昇進したら新任課長研修、異動があったら異動者を対象とした研修があり、最近では女性対象のキャリアアップ研修、定年間近の人を対象としたセカンドキャリアを考える研修、語学の習得や資格の取得なども体系に含まれるようになりました。そして、これらのほとんどが、どこかの会場に対象者を集めて一斉に行われる集合型研修です。

ここまで多くの種類ではなくても、中小企業で同じように体系化して研修を行おうとする会社は少なくありませんが、私はその効果について懐疑的です。そもそも、大企業が研修を体系化し、ルールを決めて運用している、また集合型で実施しているのは、社員数に比べて人事部(教育の担当者)の人数が少なすぎて、個別に目が行き届かないから。そのときどきの現場の状況を見ながら研修を企画し、個別の要望に応えていくだけのパワーがないからです。だから、現場の上司たちが「なぜ今、うちの部下がそんな研修を受けるの?」「もっと、それとは違う研修を受けさせたいんだが…」といった反応をするわけで、実際には現場の状況や個別のニーズとは異なる研修が実施されていることが多い、という結果になってしまっています。

確かに研修体系を作り、講師を招いて集合研修を行うと、研修をやったような気にはなりますが、それでは中小企業ならではの組織の小ささが活かせていません。人数が少ないのですから、社長も管理部門の人も社員の個性や特長、現場の状況やニーズは手に取るように分かっているはずです。であれば、中小企業はもっと個別性に配慮した人材育成や研修を行うべきだと思います。私のことを言えば、300人の講演会と10名のワークショップでは同じテーマでもまったくやり方は違います。300人もおられれば、知りたい、聞きたい内容もかなりの幅があるでしょうが、そんな大きな会場で双方向の会話は成立しませんから、一方的に話すしかありません。せめて…と思って笑いをとっても、喜んでくれる方もおられるでしょうが、「そんな冗談を聞きにきたのではない」と思われる人もいるかもしれません。大企業で行うような集合研修は、これに似ています。

10名のワークショップならどうでしょう。私と受講者には、十分な会話が成立します。その理解度やそれぞれの思考の仕方を見ながら、伝え方や内容を変更することも可能です。受講者同士の意見が異なれば、それを利用しながら話を深め、理解度が増すような仕掛けもできます。個別性に配慮した研修が可能になるわけです。中小企業の人材育成は、こうでなくてはなりません。

確かに、大企業のように、もっぱら人材育成について考えるような担当者を置くのは難しいでしょう。しかし、経営者や幹部や管理職が皆で協力してやればできるはずです。社員一人ひとりを順に話題にして、どのような強みや特性があり、これからどのように育てていくかを議論し、決める。それに基づいて仕事や役割を与えるようにし、目標設定や評価の面談の際には、上司は十分な時間をとって話し合い、成長について本人と一緒に検討する。その内容をまた経営者や幹部で共有し、育成計画を練り直す。このような、一人ひとりに焦点を当てた育成のPDCAこそ、中小企業がその強みを活かす方法だと思います。中小企業においては、集合型の研修は、このような個別性の高い育成への取り組みを前提として検討されるべきものと言えます。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

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