2020年01月27日

「70歳定年」は、若者にも影響を及ぼす。

70歳までの就業機会確保の努力義務を企業に課す「高年齢者雇用安定法」の改正案が、先日開幕した通常国会に提出される予定で、成立すると、早ければ2021年4月から実施される見通しだ。2013年に「65歳定年」が義務付けられたときには、大半の企業で「希望者を65歳まで継続して雇用する(一方で、給与は大きく減る)」という継続雇用制度を導入するだけの対応となったので、その年齢に該当しない人たちにはほとんど影響がなかったが、今回は違うだろう。中高年だけではなく、若い世代の給与や働き方にまで影響を及ぼすと考えられる。

前回と状況が異なるのは、法改正によって2020年4月から、「正社員」といわゆる「非正規労働者」(有期雇用労働者、パートタイマー、派遣労働者など)との不合理な待遇格差の解消(同一労働同一賃金の実現)が求められるようになることである。これまで企業は、同じような仕事をしているのに、60歳を超えたら有期雇用契約に切り替えて給与を半分近くまで下げる、といった措置をしてきた(「継続雇用」の実態)が、同一労働同一賃金の原則によって、このようなやり方は難しくなる。簡単にいえば、すぐにではないものの、企業は「同じような仕事なら、給与水準を下げずに70歳まで雇用しなければならなくなる」というわけだ。

企業がこれを実現するには、大きな人事制度改革が不可欠となる。まず思い付くのは、給与カーブを寝かせること。60歳を超えても給与水準を維持するためには、今よりもなだらかな上昇カーブにせざるを得ないからだ。具体的には、「定期昇給」や「昇進・昇格時の昇給」の額を減らしたり、なくしたりすることが考えられる。これは、若い人にとって給与が上がりにくくなる制度変更となる。とはいえ、全員の給与が上がりにくい制度では優れた人材を確保できないから、評価が良ければ今の制度よりも給与が高くなるなど、評価によって大きな差がつくようにする必要があり、これによって年齢や年次による横並び処遇もいっそう崩れていくだろう。

給与カーブを変更しないなら、年齢ではない合理的な理由をもって、60歳を超えた人の給与を下げなければならない。そのためには、これまでと今後の「職務の違い」を具体的に示す必要がある。「職務の明確化」だ。これは、日本特有の「職能給」(勤続年数や階層の横並びで処遇がおおむね決まる“メンバーシップ型”)ではない、欧米型の「職務給」(仕事内容や職責、能力によって個別に処遇を決める“ジョブ型”)の一部導入となる。当初は、60歳を超えた人たちにだけ、職務内容とそれに応じた給与が個別に提示されるが、そのうち、「職務給」の方が評価基準や給与制度に縛られにくく、個別の能力や望む働き方などに対応可能な柔軟性があり、仕組みとして合理的で双方に納得性が高いと分かれば、だんだんと若い世代にも広がっていく可能性は十分に考えられる。

定年制を廃止する企業も増えるだろう。このまま年金の受給開始年齢の引き上げに合わせて、定年の年齢をずるずると引き上げさせられるのであれば、もういっそのこと辞める時期は自分で決めてもらおうと考える企業も多いはずだ。具体的には、定年が廃止され、早期退職制度が拡充されるといった制度の変更が想定される。そもそも、欧米の多くの国では「年齢と職業能力には関係がない」という原則があり、年齢を理由に退職させる定年退職制度は年齢差別であり、違法となる。このような国際的背景があるから、国も、企業の努力義務として「定年の延長」よりも「定年制の廃止」を上位に挙げている。

会社が定めた制度やキャリアパス、研修などに頼らず、自分のキャリアは辞める時期や転進先も含めて自分で考え、自分で決める―—「70歳定年」は、このような姿勢で職業人生を歩まなければならない時代の到来を予感させるものがある。