「自律的に自身のキャリアを形成する時代」と「自律的キャリア」というワードをよく聞くようになって久しいですが、まず、自律の本来の意味は「他からの制約を受けることなく、自分で決めた規範に従って自分の行いをコントロールすること」です。
制約を受けずに自分で決めるには、まずは自分がどうしたいのか、何をしたいのか、を知ることからです。必要なのは、「内発的動機」です。しかし、過去長い間、組織で働き続ける上で内発的動機を考える必要がありませんでした。また、そういうことを考えないよう抑制されてきました。会社から期待される役割をきちんと全うしていくことで、キャリアが形成された時代が長く続いていたのです。外発的動機である、会社の期待に応えるために、〇〇の役割を担うために、と「せねばならない」方向で動いていました。
外発的動機が強かった時代から、内発的動機も求められ、また必要な時代への移行で、今はその過渡期と言えるでしょう。かといって、外発的動機が必要ない、ということではありません。バランスが必要、ということです。「したい」と「せねばならない」のバランスです。例えば、会社組織にいると、その組織が目指すもの、価値を提供したいと思っているものなど、いわゆるミッション・ビジョン・バリューがあります。そして、どこかの部署に配属され、役職を任されます。これらは、周りからの期待で、MUST、せねばならないこと、とも言い換えられるものです。MUSTを理解した上で、自分はどうしたいのか。これがバランスになります。自分がどうしたいのか、やりたいことだけでは、仕事は任せてもらえないことがあります。しかし、逆にMUSTだけを意識していると、自律的に動けなくなります。
組織では、定期的な評価面談や上長との1on1ミーティングなどで、MUSTについて確認する機会を設けられます。階層が変わる時も、MUSTの変化の話をする方も多いでしょう。
管理職研修の際に、メンバー個人がどうありたいか、どうしたいのか、など、内発的動機について話しているか、をお伺いすると、MUSTの話を元に、目標設定をすることが多く、案外内発的な話はできていないかもしれない、しているつもりだけれど、それは評価などのMUSTに合わせて言わせているだけかもしれない、といった答えが返ってきます。
日本企業で働く管理職もおそらく、MUSTから物事を考える習慣があるのでしょう。ミドルシニア以上の管理職たちは、MUSTが合わない場合、何とか折り合いをつけて、例えば仕事だから仕方ない、とか、家族がいるし、などの理由で働き続けてきていましたが、今の若手はそうはいきません。周囲からの期待、やってほしい仕事と自分のやりたいことに乖離があると感じると、転職に繋がります。しかし、若手のカウンセリングをしていて、彼らの内発的動機をお伺いすると、答えは返ってきますが、単に条件や、仕事内容に対するやりたいことで、なぜそれをやりたいのか、やることでどうなっていきたいのか、などの深い内発的動機が描けていないことも多いのです。そのため、仕事内容が合わなかった、条件が合わなかった、などの表面的な理由で退職に繋がります。
これからの時代、働き続けるためのモチベーションとなる内発的動機をきちんと自分でとらえる必要があります。それは、条件や仕事内容だけでなく、もっと深いものです。
経営学者エイミー・レズネスキーらの研究によると、内発的動機をみつけるために、ジョブクラフティングが大事であることがわかりました。それは、自らが自分の仕事に新たな意味を見出したり、仕事内容の範囲を変えたりすることで、仕事の意味付けを再定義し、より意義深いものに変えていくことだそうです。
この仕事は何のために在るのか本質は?この仕事をすることで、誰に貢献しているのか?今のやり方が合わないのであれば、自分にとってやりがいを感じられるやり方はないだろうか?チームメンバーとどんな関係を築いたらやりがいにつながるのだろうか?
このように考えていくと、「●●をしたい!」と内発的なものがみえてくるのだそうです。
外側に期待し、期待に合わなければ我慢する、または辞める、というアクションではなく、自発的に現状を満足できるようにするよう考え方の枠組みを変えることが内発的動機となり、キャリア自律に繋がります。
そして、それでもここは違う、と思ったら、内発的動機がきちんと発揮できる転職を考えるとよいのではないでしょうか。
藤井佐和子ふじいさわこ
キャリアアドバイザー
個人と企業からの依頼によるキャリアカウンセリングは、延べ17,000人以上の実績。学生からシニア層まで年齢や性別を問わず、自分らしいキャリアデザインをするための選択とアクションに向けたカウンセリングを…
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