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2014年07月30日

日本代表には何が足りなかったのか?

 7月12日の決勝戦を待たずに、ブラジル国内はワールドカップのムードが強制的に鎮火されました。ドイツとの準決勝の結果には、世界中が驚いたことでしょう。開催国のブラジルが、ドイツに1対7の大敗を喫したのです。歴史的と言っていい惨敗でした。

 ネイマールとチアゴ・シルバという攻守の要を欠いたから、ブラジルはドイツに成す術もなく敗れてしまった―一般的にはそのような分析がなされているかと思いますが、それだけではないと私は思います。ドイツはブラジルを研究していました。

 ブラジルのダブルボランチは、ハードワークができて前に強い―ボールを奪い取る力を持っています。ただ、攻撃に関しては万能ではありません。相手が守備ブロックを敷いて自陣に引いてくると、ボランチのところで攻撃が手詰まりになる傾向があります。前線にパスを出し入れしながら攻撃を組み立て、相手のバランスを崩すのが得意ではないのです。ボールをさばくことはできますが、そこから先の効果的な一手をなかなか打てません。

 そのため、奪ったボールは両サイドのネイマールとフッキに素早くあずけ、時間をかけずに崩し切ることで、ブラジルは相手に攻撃の糸口を見つけてきました。しかし、ブラジルが得意とするその攻撃パターンを、ドイツは守備ブロックを作ることで封じていきます。しかも、ダブルボランチにボールが入ったところに狙いを定めました。

 ドイツの得点パターンを、思い出してください。似たような形が多いことに気付くはずです、相手のボランチからボールを奪い、そのままの勢いでゴールを陥れました。事前の分析どおりのサッカーをしたわけで、彼らは勝つべくして勝ったのです。

 今回のワールドカップを見ていると、いい準備といい分析をした国が勝ち上がっていった印象があります。ドイツはその典型でしょう。打倒ブラジルへの分析は、緻密を極めていました。そうした国の戦いを目の当たりにするたびに、日本代表について考えさせられます。

 6月下旬の段階で、日本国内はすでに後任監督の人事に話題が集まっていました。私もワールドカップのスタジアムで何度か見かけたハビエル・アギーレ。母国メキシコをW杯で2度率い、いずれもベスト16入りした彼の能力は、ひとまず論点から外します。私が問いたいのは、「なぜアギーレなのか?」という議論が、まったくと言っていいほど浮かび上がってこないことです。ザッケローニ監督のチームがどのような結果を残しても、次はアギーレ監督に任せると決めていたかのようです。

 ドイツやブラジルのようにW杯優勝がつねに目標の国ならともかく、我々は世界のトップクラスに追いつき、肩を並べる存在となり、やがては追い越すことを目ざす立場です。だとすれば、ブラジルW杯で明らかになった課題を、具体的には何ができて何ができなかったのかを、しっかりと整理しなければなりません。

 2018年にロシアで開催されるW杯に向けて、世界のサッカーはどのような方向へ進んでいくのか。そのなかで、日本が結果を残すためにはどうしたらいいのか。日々刻々と変化する世界の潮流に照らして、目ざすべき方向を定めなければなりません。今回のワールドカップでは、「自分たちのサッカー」という言葉がしばしば聞かれました。

 ここで誤解をしてはいけないのは、選手はその都度変わるということです。

 1982年大会から94年大会までワールドカップに出場したディエゴ・マラドーナの後継者を、アルゼンチンはすぐに見つけることができたでしょうか? 「マラドーナ2世」と呼ばれる選手は星の数ほど登場しましたが、98大会でも2002年大会でも、2006年大会でも後継者は出現しませんでした。2010年大会で背番号10を背負ったリオネル・メッシも、南アフリカでは1点も取れずに大会を去っています。

 そのメッシがキャプテンとなり、チーム最多の4得点をあげている今大会で、アルゼンチンは90年大会以来の決勝進出を果たしました。”マラドーナ後”のアルゼンチンが結果を残すには、実に24年もの時間を必要としたのです。タレントの宝庫アルゼンチンでも、マラドーナに並ぶ選手はそう簡単には登場しないのです。第2の本田圭佑、第2の香川真司が、すぐに出現するとは考えないほうがいいでしょう。

 だとすれば、日本サッカーとしての方向性をしっかりと持ちつつ、ワールドカップのような舞台で勝てるサッカーを追求するべきです。毎回同じサッカーをする必要はありません。手元にいる選手の能力が、最大限に引き出されるサッカーをすることに傾注するべきなのです。

 ブラジル・ワールドカップの3試合から、何が見えたのか。何が足りなかったのか。とにかくしっかりと検証することです。

 ちなみに、今大会でベスト4に進出したブラジル、ドイツ、アルゼンチン、オランダは、すべて自国の監督が率いています。4年前のベスト4もそうでした。日本国内ではほとんど気にされていないこの事実を直視するべきだと、私は考えます。

山本昌邦

山本昌邦

山本昌邦やまもとまさくに

NHKサッカー解説者

1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…

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