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2011年11月25日

選手が自分の意志で行動するために指導者がすべきこと

 私が気をつけたのは、「選手自身に考えさせる」ことです。
我々が指揮した代表チームでは、合宿中に対戦相手の映像を自由に観られるようにしておきました。相手のストロングポイント、ウィークポイント、リスタートのパターンなどをあらかじめまとめて、リラックスルームと呼ばれる共用スペースに用意しておいたのです。

 合宿といっても空き時間はあります。次の対戦相手がどんな特徴を持っているのかは、選手なら誰だって気になるもの。知りたくない選手はいません。こちらが強制しなくても、リラックスルームに足を運んでいきます。

 食後の休憩時間に何人かが集まって、映像を観ながらワイワイと話をしていると、くだけた雰囲気のなかで自然とディスカッションをしているんです。リラックスルームの前を通ると、こんな会話が聞こえてきたものでした。

「このフォワード、ムチャクチャ足早えな。お前の足じゃすぐに抜かれるぞ」
「でも、コイツにパスを出させないようにするのも大事だろ」
「ロングボールを入れさせないようにして、コイツに入ったらすぐに2対1にして囲い込んで」
「そうするとボランチがひとり下がるから、サイドハーフのポジションは……」

 チームメイトをからかうようなところから、いつしか具体策へ話が踏み込んでいくのです。
試合の数日前に開くミーティングでは、選手に聞くことからはじめます。

「相手のメンバーを言ってみてくれ」
「相手のストロングポイントはどこだ?」
「セットプレーでは誰に気をつけるべきだと思う?」

 映像から得た情報を発信させることで、実際の対処法を選手自身にイメージしてもらうのです。発言をするという作業は、頭のなかで考えを整理することですからね。

 監督やコーチの分析と選手の考えが、すべてにおいて一致するわけではありません。それでいいのです。「でも、こういう対応策もあるんじゃないかな」と提示すれば、それに対して選手はまた考える。ミーティングで「こうしろ、ああしろ」と事細かに指示して、選手が頷いていたとしても、本当に理解したかどかは分かりません。「何となく」といったレベルにとどまっているかもしれない。

 しかし、「考える」という主体的な行為が加われば、ミーティングのレベルは間違いなく向上します。実際のゲームでは、試合の流れに応じて選手自身が決断を下していかなければならない。監督やコーチがテクニカルエリアに飛び出して、「右サイドから攻めろ」とか「あの選手を挟み込んでボールを奪え」と指示したところで、その間にもゲームは進んでいます。戦況は刻々と変化している。選手自身がピッチ上でいち早く対応できるための準備というのが、ミーティングの本質だと私は考えています。

 ゲームの直前のミーティングは、時間にすると5分から10分程度にとどめます。長くても15分でしょうか。ここでは戦術的な指示はしません。ストレスやプレッシャーから選手を解放するのが第一の目的で、次に「自分はどうすればチームに貢献できるのか」を選手に考えさせる時間とします。

 たとえば、昨夏の南アフリカ・ワールドカップの日本対カメルーン戦を舞台としてみましょう。私がコーチングスタッフであれば、長友佑都選手にはこんな話をしたと思います。

「お前の身体能力は、アフリカ人選手にも決して見劣りしない。エトーだって抑えることができる。そして、お前がエトーを抑えたら、カメルーンの攻撃力は少なくとも30パーセントはダウンする。これまでやってきたこと、いまできることを存分に発揮してくれ」

 自分の意志に基づいた行為に、人間はストレスを感じません。サッカー選手だけでなく、ビジネスマンでも同じでしょう。上司や監督に指示されるより、何倍ものパワーを注ぐことができるのです。

 選手が自分の意志で行動するために、彼らの心に火をつける──指導者の大切な仕事です。

山本昌邦

山本昌邦

山本昌邦やまもとまさくに

NHKサッカー解説者

1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…

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