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2011年08月15日

サッカーは、南米を中心に動いていく

 南米選手権(コパ・アメリカ)の取材から帰国すると、日本国内がなでしこジャパン一色に染められていました。9月にはロンドン五輪アジア最終予選が行なわれます。彼女たちの動向は、引き続き注目を集めていくことでしょう。

サムライブルーと呼ばれる男子の日本代表も、ワールドカップアジア3次予選の開幕を目前に控えています。すでに組み合わせが決まり、9月2日に第1戦を迎えます。アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表の戦いぶりからも目が離せません。

さて、先日まで取材をしていた南米選手権(コパ・アメリカ)で、私は新たな時代の到来を痛感しました。南米は戦国時代に突入しているのです。

 今回のコパ・アメリカでは、南米サッカーをリードするブラジルとアルゼンチンが準々決勝で敗退しました。ベスト4はウルグアイ、パラグアイ、ペルー、ベネズエラという顔ぶれです。驚きをもたらしたのはベネズエラでしょう。

南米大陸にありながらサッカーより野球が盛んで、南米サッカー連盟所属10か国のなかで唯一ワールドカップ出場経験がない。これまでアウトサイダーと目されてきたベネズエラが、スポットライトを浴びたのです。

しかし、彼らの成長は決して偶然ではありません。セサル・ファリアス監督は話します。「いまの我々の勢いは、ユース世代への投資と人材(指導者)の育成がもたらしたものだ」と。

 2009年のU-20ワールドカップで、ベネズエラは史上初めて南米予選を突破しました。本大会でもベスト16に進出しています。そのチームを率いたのが、現在の代表監督であるセサル・ファリアスなのです。強化に持続性があるわけです。フィリップ・トルシエ監督のもとで若年層とフル代表の連携を強めた、かつての日本代表に重なるでしょう。

 パラグアイとの決勝戦を制して、最多15度目の優勝を勝ち取ったウルグアイも同様です。U-20ワールドカップには07年大会から3大会連続で出場しており、U-17のカテゴリーでも09年大会から2大会連続で南米予選を勝ち抜きました。

しかも、先ごろ行なわれたU-17ワールドカップでは、南米勢で最高の準優勝に輝いています。今回のコパ・アメリカで大会MVPに輝いたルイス・スアレスも、U-20ワールドカップの経験者です。ベネズエラのファリアス監督が語った「ユース年代への投資と人材の育成」という言葉が胸に刺さります。

 開催国のアルゼンチンは、国民に失望をもたらしました。世界最高の選手と呼ばれるリオネル・メッシも、主役を演じることはできませんでした。選手個々のタレント性からすれば、アルゼンチンは優勝に値するチームだったでしょう。

 ただ、攻撃時にアグレッシブな選手が多い一方で、ディフェンスにおける運動量が少ない。ウルグアイとの決定的な違いがそこにあります。ウルグアイのフォルランやスアレスが、前線から献身的なまでにディフェンスをするのとは対照的に、メッシは彼らほど守備で汗をかかない。

本当の意味でのいい選手というのは、攻守の隔てなくチームに貢献し、ひいてはチームを勝利へ導ける選手だと、私は思っています。ペレ、ベッケンバウアー、プラティニ、マラドーナ……そうした選手はタイトルを獲得している。アルゼンチンのサポーターが「メッシはアルゼンチンの選手じゃない。バルセロナの選手だ」と嘆きの声をあげていましたが、現在の彼は「ボールを持ったときは世界で一番うまい選手」だけれど、「本当の意味でのいい選手」ではない、ということでしょう。

数年ぶりの南米訪問で、もうひとつ感じたことがあります。これからのサッカー界は、南米を中心に動いていく、ということです。次回のワールドカップは、ご存じのようにブラジルが開催国となります。必然的に、その前年に行なわれるコンフェデレーションズカップもブラジルがホストを務めます。ワールドカップのプレ大会という位置付けで行われるこの大会には、アジアカップ優勝国として日本の出場が決まっています。

15年に行われる次回のコパ・アメリカも、ブラジルが舞台となります。さらに付け加えれば、16年の夏季オリンピックはリオ・デ・ジャネイロで行われる。

先ごろ、日本の大手ビールメーカーがブラジルのビール・清涼飲料の大手を買収しましたが、世界的なスポーツイベントが、これだけ集中的に開催されるのです。世界の視線はブラジルに集まっており、同様の動きは世界的に広まっていくと考えられるでしょう。

サッカー界も敏感に反応していくべきです。南米を評して「地球の裏側」といった表現が使われますが、時差、移動、気候、文化、治安など、ストレスを感じる要素は少なくありません。現地で戦うチームをピッチの内外でバックアップするためにも、ブラジルをはじめとする周辺国との関係を深めていかなければならない。そういった意味で残念だったのは、コパ・アメリカ開催中に日本サッカー協会の関係者を見かけなかったことです。私は大会の後半から現地入りしたので、入れ違いになってしまったのかもしれませんが……。

コパ・アメリカを視察したところで、代表強化にすぐにつながるわけではないでしょう。ただ、世界に触れずして、世界を語ることはできません。南米各国とのパイプを太く強くし、世界の潮流から乗り遅れないためには、こうした大会を生かしていくべきだと思うのです。

山本昌邦

山本昌邦

山本昌邦やまもとまさくに

NHKサッカー解説者

1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…

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