ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム スポーツ

2005年02月01日

世界1の意味

2001年。福岡で開催された世界水泳で悲願の優勝を果たし、自分の進退を考える局面を迎えました。夢は叶った…。演技もベストが出せた…。でも、まだ何か足りない気がする…。バーンアウトはしていない…。しかし、もう一度あのトレーニングをやり抜く気力があるだろうか…。様々な思いが交錯しました。

まったくシンクロから離れる時間を1ヶ月ほど頂き、その間本当に何もせずぼんやりと考えました。

1ヶ月後、井村先生と1対1でのミーティングがありました。もちろん内容は今後の進退問題について。私は「シンクロを続けていきたい」と先生にお話しました。この結論に至った最大の理由は、シンクロの本当の面白さをわかり始めたから。

福岡でのプログラム「リトルシアター」(パントマイム)は、これまでで初めての試みである”笑い”を取り入れ、泳いでいる自分自身も楽しくておかしくて、こんな風に心から笑って演じたことはありませんでした。これは私にとってある意味ショックなことだったのです。今まで楽しいと思ってきたのものは何だったんだ!?というぐらい、根底を覆されるような衝撃です。

「シンクロを思う存分続けたい」
スポーツでありながら芸術でもあるシンクロの奥深さに改めて気づき、もっと突き詰めていきたいという思いが大きくなりました。次に取り組むプログラムでまた新しいシンクロを発見し、そしてそのことが世界のシンクロを牽引していくことになれば、どんなに素晴らしくやりがいのあることだろうと思いました。

トレーニングの辛さよりも、その思いを叶えることの喜びの方が圧倒的に勝っている。考えた1ヶ月の間で、自分の気持ちがそのように確認できました。

とは言え、私一人では成し遂げられないことです。井村先生がいて下さって、そしてパートナーである立花さんもいる。この条件と、それぞれのモチベーションの高さが揃い、初めて次へのスタートを切ることができると考えました。井村先生は「美哉とあなたがシンクロを続けたいと思う限り、私も共に続けていくよ。」と言って下さり、美哉さんも「1度だけでは優勝した実感が湧かない。もう1度してみたい。」と、来期に向けての意欲を言葉に表していました。自分の気持ちの確認と共に、こうして徐々に条件が揃い、私は再び競技人生を踏み出していったのです。

「長期休養による体の変化」
福岡での世界水泳があったのは7月。それから1ヶ月間全く水から離れた生活を送り、2ヶ月目にようやく体慣らしのために自分で週2、3回泳ぎに行き始め、3ヶ月目から、それまでずっと指導をして頂いていた、白木先生(筑波大学助教授)の下、陸上トレーニングを再開。丸々3ヶ月が経った10月末に、水中練習の本格始動となりました。

実は、これもまた初めての試み。休むことで、シーズン中に蓄積された疲れと精神の両方を完全にリセットさせ、次へ進んでいく気力・体力を蓄えるという目的があっての長期休養。また、陸上トレーニングの面では、シンクロの動きの中で本当に必要な筋肉に着目して鍛え直すということで、1度今までの必要・不必要も含んだ筋肉を落として再開発させる目的がありました。

練習が始まったときの体の疲労感は驚く程でした。重くてだるくてすぐに乳酸が溜まる。休んだのだから当然とは言え、こんなはずでは…と焦りは隠せませんでした。女性の筋肉はあっけないほど簡単に落ちてしまうことを実感しました。実際の数値を見てもそうです。MRIという身体を部位毎に輪切りにして断面図にし、筋肉の面積や脂肪の面積から筋量を測定する機械があるのですが、トレーニング再開当初は完全に一般女性の筋量にまで落ちていたのです。

正直、揺らぎました。私はこれからしようとしていくことに耐えてついていけるのだろうかと、とてつもなく後ろ向きな気持ちになりました。しかし、プログラムのテーマや曲が決まり、振り付けが進んでいく時期になると、いつの間にか先生に「続けます」と言った時のモチベーションを取り戻し、それに伴って、陸上トレーニングの方でも体が変化を遂げつつありました。

特に足の筋肉の付き方が変わり、四角くしっかりした足(床柱と呼ばれていました!)が、必要な筋肉だけになったので余計な部分がシェイプされたのです。「一瞬見ただけなら美哉さんのきれいな足と区別が付かなくなってきた」とも言って頂けたことも。

この経緯で私がシンクロを好きな理由が一つはっきりしました。

「創作することが好きなのだ。」
2002年のプログラムは「WILD ANIMALS」。ライオンや猿、南国の綺麗な鳥をイメージし、力強さ、コミカルさ、美しさが次々と展開されていく、盛りだくさんの内容に仕上がっていきました。もちろん、去年を越えたハードさです。

試合は9月中旬。ハードさに耐えていける体づくりと、水中での徹底的な反復練習がたっぷりできました。途中、日本選手権やローマオープン、エキシビションという舞台を踏み、完成度を高めていきました。泳ぎこなせていない部分というのは、緊張感のある特殊な空間で泳ぐことで不思議なほど浮き彫りにされます。出来のよかった部分、悪かった部分を井村先生が的確に分析され、課題に対して丁寧に取り組んでいく作業が繰り返されました。

試合当日。ワールドカップは、去年とうってかわって場所はヨーロッパです。紆余曲折はありましたが、お互いピーキングも成功し、今まででベストの技の切れと同調性で泳ぎ終えました。

テクニカルルーティン予選から風向きは完全にヨーロッパ勢でした。福岡では同点だったテクニカルで、今回はたった一人の審判のわずかな得点差によって2位で決勝を迎える。決勝で最高の出来だったにもかかわらず点差はさらに離され、私達は2位に終わったのです。あっけなかった。たった1年での転落。悔しくて、止めようと思っても涙が出てきてしまいました。

「芸術性って何?私達に足りなかったものは?」
整理がつかないままの帰国となりました。そして改めて、進退の問題です。悶々として休養の一ヶ月を過ごしました。井村先生も美哉さんも私も…。

そしてまた、3人がそれぞれの答えを出しました。

武田美保

武田美保

武田美保たけだみほ

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。