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2013年05月01日

グローバルに活躍する人材の輩出は日本の急務

 現在、様々な国の経済が落ち込み、その立て直しが図られています。日本もようやくここにきてアベノミクスによる効果からか少しずつ数字にも変化が起こり、明るい兆しが見え始めました。私達が実感できるまでの回復はまだこれからでしょうが、閉塞感や行き詰まりからの脱出は、心のストレスを大きく軽減してくれます。知らないうちに鬱積していたストレスを、ちょっぴり景気よくお買物したりして取っ払っていきたい気分です。

 スポーツでも何でも、結局”できる”ということを自分が信じていれば、できる為に必要な人生の行程表と乗り越えなければならない課題が自ずと見えてくるものです。それが見えると、前に進む方法がわかり、粘り強く頑張る気力が湧いてきます。逆に”できない”と思えば、「やっても無駄」という心理が働くのか、取りかかりの初めから無意識に力がセーブされ、全力は出せません。行程表が描けないと、どこが踏ん張りどころかもわかりません。この良い兆しを本物にするかどうかは、私達の考え方次第のような気がします。

 さて、国を立て直す時、経済と両輪でよくいわれるのが”教育”であると思います。過去、危機的状況に陥った国が教育政策に重点を置くと、奇跡的な経済の回復が起こったという事例もあります。そして今、日本でも教育についての徹底的な見直しと政策の転換が取り組まれているところであります。

 狭い国土で、食糧自給率が低く、少子高齢化が加速する日本にとって、これから必要になってくるのがグローバル人材とイノベーション人材の育成。日本が誇れる高度なテクノロジーを武器に、世界を牽引していけるリーダーの輩出と、理工系研究者の裾野の広がりが急務です。そしてその大きな役割を担うのが、大学での教育であると言われています。

 例えば最近、政府の教育再生実行本部がまとめた報告で、大学受験にTOEFLを活用するとの方針が示されました。日本人の世界における発信力の弱さ、ディベート能力の低さなどが問題提起されての議論ですが、その大前提にあるのがやはり英語。コミュニケーションを取れなければ当然意思の疎通ができない訳ですから、これからの子供達は使える英語、話す英語の能力を飛躍的に伸ばしていかなければなりません。TOEFL導入の方針に関しては賛否が分かれるかもしれませんが、私は賛成します。自分に置き換えてみたとき、半ば強制されての英語学習であっても、脳が吸収しやすい時期にやっておくべきだったと思っています。

 しかし、一つ感じるのは、単純にTOEFLの点数を取るためだけの学習であってはならないということです。英語の修得と同時に、コミュニケーションの背後にある「どんな文化や宗教を持った人と話すのか?」「日本人として何を発信するのか?」という目的も意識しないといけないのではないでしょうか?常にその視野を持って物事を捉えていける人、それがグローバルな人材であると思います。

 一度、この連載でも触れたことがあると思うのですが、私自身、オリンピック期間中に爆破テロが起こったことがありました。ニュースで連日流れていたので、うっすらとその事実は知っていたのですが、演技直後、チームメイトが海外のメディアからこのテロについて質問を受けたことがあったのです。通常なら演技の出来などの感想を求められたり、次に向けての抱負を聞かれるものだと思っていたので、その選手は用意になかった質問に答えられませんでした。

 それを見ていた私は「自分だったら何て答えただろう?咄嗟に、日本という国の文化を理解した上で、見解を話すことができただろうか?」と思った訳です。ましてや、英語は片言しか話せず、自分の想いを表現することなどできないという状態でした。日本代表とは専門競技の代表というだけでなく、文字通り、日本の代表として世界から見られていることを、その時改めて知りました。

 このように経験から気づくこともできましたが、これは幸運なこと。では、グローバルな視野を持つことを日本人のスタンダードにするとすれば、誰に?いつ?教えてもらえるのでしょうか?これはまず日本社会全体がこの視点を意識する必要があります。日本人のルーツやアイデンティティを再認識すること、世界の宗教や文化に関心を持ち、賛同せずともそれを楽しむこと。これらを大人が理解すれば自然と子供達にも伝えていけると思います。

 教育機関でも同じことが言えるでしょう。大学は、小、中、高で学んだことの編集作業をする場所であるべきだと私は考えます。大学でいきなり「グローバルな視点で意見を言え!」「流暢に英語を話せ!」と言われても、その素地がない若者達にはちんぷんかんぷんです。聞くばかりの授業ではなく、小、中、高の間にもっと考えを議論するという機会や授業を展開する必要があると思います。その延長線上で、大学では社会に出て即戦力になるような実践的なプレゼンの仕方や、発信の仕方を学ぶと効果が上がると思います。

 入学試験のあり方もそれに際して変わって行かざるを得ないでしょう。もっと想像力、表現力が豊かであるように、さらに自分という人間が考えていることを発信できるように、そんなことが評価の対象に加われば、小・中・高の授業内容も変わっていくであろうと思います。私は大学改革も必要ですが、この初等教育に重要性を感じています。

 いつも言い続けていることですが、やはり子供達が日本の未来を作って行くのですから、大人達が子供達に何を伝えたいのか、これが最も重要であると思います。制度も仕組みも、そして空気感でもいいから、全てを総動員して、ひとりひとりの大人が未来のためにその責任を果たしていかなければならないと思います。

武田美保

武田美保

武田美保たけだみほ

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…

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