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2012年11月01日

決められたことだけしかできない選手に未来はない

 先日、私が指導しているシンクロクラブでの練習中、中学生のある選手になんと言葉を掛けてやればよいのか迷ってしまった瞬間がありました。

来シーズンに向けての新しいプログラムの振り付けをしている最中なのですが、振り付けの時期であっても、見栄えがいいのか悪いのか、あるいは彼女達の魅力が出せている動きなのかどうか判断するために、選手には全力で演じてほしいといつも呼びかけているのですが、その日、ある選手の動きがとても小さいのです。

とても縮こまって全力を出していないように見えたので「もっと自由に動いてごらん。何を表現したいのか、その小さな動きだったら伝わってこないよ。元の振り付けをベースに顔を残すとか、高く上がるとか、緩急をつけるとか自分なりに色々やってみせてみてほしい。いい動きを採用していくから」と言いました。

そのある選手は、”自由に”というのが超がつく不得意分野だったのです。指示されたままの動きや基本練習などもくもくとすることには長けているのですが、こういう表現の指導をするときには完全に自分の殻に閉じこもってしまって、全く動こうとしないのです。

前にも同じことがありました。ダンスの先生のレッスンでも消極的な動きになってしまい、「間違えてもいいから全身を使って!」と言ってもやらない。そこで立ち尽くしてしまい、そんな自分が嫌なのか挙句には泣いてしまうのです。「表現って本来めちゃくちゃ楽しいものなんだよ」と伝えたいのですが、てこでも動かなくなってしまうこの選手を変えるにはどうしたらよいものか。

なだめてもすかせても、あまりに頑固なこの選手に、最終的には「全国大会に行きたいという想いよりも、今、やるのが恥ずかしいという目先のことの方をあなたは優先したんやで!そんな選手に付き合うことはできない!今日の練習、もう終わる!」とこの日は強制終了しました。全部の練習が終わってから、その子を呼んで「頭の中ではどんな葛藤が起こってるの?」と聞いてみたら、「動こうとする瞬間、頭が真っ白になってどんな振り付けだったかも飛んでしまう…」ということでした。

私がその子にさらに伝えたのは、私は下手で怒っていないということ。不格好でも何か全力でやって見せてくれたら、それに対してよりよい動きに導くのが私の仕事だと思っているということ。うまくやろうとし過ぎて、「できなかったどうしよう」という考えがプレッシャーになるのか、その原因を考えて自分で克服しないと、この先もずっとこの問題は付いて回るということなどを話しました。

ふと、「私も子供の頃、これと同じようなことを先生に言われたなぁ…」と思い出しました。私も自分の感覚を変えることに憶病で、挑戦しない心のことを何度も恩師に叱られました。けれども、だんだん理解できるようになりました。なりたい自分になるためには、その問題からは決して逃れられないことを。そして、その取り組みはつらいばかりのものではなく、やってみさえすればちょっと楽しさもついてくるということを。

練習当日は私もその子に対してどうしたらよかったのかを迷いましたが、その選手には自分が恩師からそうしてもらったように、諦めず同じことを繰り返して伝え続けようと今は思っています。選手も個性や成長の時期はそれぞれあるので、ぐいぐい引っ張るだけでなく、待たないといけないこともあると思います。気長にその子の”気づき”を待ってみようと思います。自分で考えて克服できたことは、一生残る宝です。それをどんどん増やしていってもらいたいですし、私もその姿を見たいと思っています。

それにしても、私自身こういう現場にいると日々勉強だなぁとつくづく感じます。なかなか結果は出ませんが、やっぱり難しいことを一つずつ突破していく作業というのは楽しいものです。

武田美保

武田美保

武田美保たけだみほ

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…

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