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2017年04月03日

「歩く人。」プロジェクトのこれまでと今後の展望

東日本大震災直後、私と仲間たちはラグビーの友人たちの支援に釜石へと向った。その後海岸沿いを北へと上がり目にした大槌町は、高台にある神社を残して全滅に近い状態であった。神社の一番低い位置にある鳥居の横にあった狛犬の片方が町に広がる火の手で溶け、金属の塊となっていた。支援に行った仲間たちが復興を誓い、その破片を今もそれぞれが持ち歩いている。

その仲間たちと共に私は「OVAL HEART JAPAN」という復興支援団体を立ち上げました。「OVAL」は楕円を意味しこのプロジェクトがラグビーの勇士達からの始まりであることを意味する。これは、私が現役を引退することを決めて臨んだ最後のシーズン、新日鉄釜石に並ぶV7を達成した1月15日から2日後早朝に起きた阪神淡路大震災の教訓を生かしてのものであった。神戸の町は、その後震災前よりもインフラが整い、きれいで大きな町となったが、震災後の2次的、3次的被害によって、真の復興を目指して頑張った多くの被災者の皆さんが現在の町を見ることができず亡くなっていった。

支援はいずれ終わり、周りからはすっかり復興したようにみえるが、被災地の問題は様々な形で被災者の皆さんをその後も虫食んでいく。そんな神戸を目の当たりにして、何より東北の被災者の皆さんの復興を願えば、自ずと我々の支援はどうあるべきか見えてきた。

それは被災者の方々の健康な体を保つこと、そして長寿になってもらうことであった。現在では健康寿命と語られるが、我々は健康=歩けること、つまり歩行寿命が復興の一番ベースにあるキーワードだと指針を立て、仮設住宅に暮らす高齢者の皆さんを対象にはじめたのが、「歩く人。」健康ウォーキングプログラムである。

「歩く人。」プログラムは、トップアスリートのトレーニングやリハビリ指導の専門家と組むことで整形外科的ノウハウを取り入れていることは勿論、内科的には心臓リハビリを中心としたノウハウ生かし、医療研究が進歩するとともに歩くことの重要性が語られる現在の先端を探るプログラムでもある。歩かない怖さ、歩くことの良さ、身体に負担をかけない正しい歩き方を論理的に解説するとともに、歩くことに必要な筋力トレーニングや柔軟体操の方法も学べるところが特色となっている。

歩くと健康になるという認識は一部正しいのであるが、歩くという行為をいつまでも繰り返すためには、「ただ歩く」だけでは足りないということを皆さんは知らない。「歩く人。」プログラムは、長く歩き続ける為には別の努力が必要であることをわかりやすく理解していただき、歩くことへの興味を引きつけ動機付けを図り、継続意識を強く焼き付けるものとなっている。健康で元気に長生きできる高齢者を増やしていくことや、若いうちからの努力、今や歩くことを学ぶことのない子供たちへの歩育などの充実も目指している。

現在83歳の平均寿命に対し、何もしない方は71~72歳で寝たきりになる。最後の10年ちょっとという人生の終期をベッドで過ごすこととなるのである。自分に置き換え寝たきりで窓の外の空を見上げて過ごす日々を思い浮かべるだけで、寂しさにやりきれない気持ちになる。被災地で暮らす方々にとって歩くことや健康を維持することは難しい環境であるが、過疎化の進む地方都市でもただ表面化はしにくいだけであって、同様にこの問題はゆっくりと深刻化している。

現在私は「歩く人。」のインストラクター育成に力を注ぎこんでいる。我々と同じメッセージを各地のインストラクターに送り続け、歩くことの大切さや正しい歩き方を理解して頂く方々を増やし、またそれを地域で継続する構造を構築している。からだづくり、仲間づくり、まちづくりを合言葉に、被災地のみならず様々な地域での展開を推進中である。大きく注目される2025年問題を控え、これから起こる日本全体を見越した人口の減少や少子化、そして働き盛りの人々にかかるストレス、卑屈な日常に落胆することをどれくらい回避できるか、それが「歩く人。」プログラムのレガシーである。

歩く人プログラムのロゴは、ずばり「歩く人。」と書く。これは言葉で私は歩く人であると宣言してほしいと願う気持ちからできたものである。長く歩き続けるコツを知り、一日の行動をほんの少し変え、いつまでも歩けることを継続してほしいと、私は溶けた大槌町の狛犬の破片を握りしめ日々思い続けている。

大西一平

大西一平

大西一平おおにしかずひら

プロラグビーコーチ

1964年生まれ。 大阪工大高で花園優勝。高校卒業後1年間ニュージーランドへラグビー留学。明治大学時代には3年時全国大学選手権ベスト4、4年時にはキャプテンを務め全国大学選手権ベスト8に導く。その後…

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