2005年08月01日

シンクロと私~引退から1年を迎えて

新しい生活に、新しい挑戦。感じるもの全てが新鮮に映り、気がつけば選手生活を引退してから間もなく1年です。「感受性豊かに」を私自身のモットーとして、できるだけ多くの事柄を、見て、聞いて、感じて、それらを瞬時に自分へとフィードバックできるように心の目を開くことを心掛けてきました。

毎日をディテールの細部まで感じ、それを体現し発信していくことが、当初頑張り方がわからなかった自分(選手の頃は、目標が明確だった)の支えになりました。大切に日々を過ごすことが、イコール、未来の自分に必ずつながることだけは知っていたからです。これは選手時代に教えて頂いた、最大の私の宝です。

そして現在はその気持ちを忘れることのないよう、家族以外でもいつも温かく私を見守り、注意を促して下さる方々に出会うことができたのが私の新しい宝となっています。お陰で、ガチガチの緊張から少しばかり脱却し、毎日を伸びやかに充実感を持って過ごさせて頂いています。

皆様には、そんな私の「心の目で見た日常」を連載の中で紹介させていただくことで、自分への気づきのきっかけづくりや、前向きな気持ちで明日を迎えるお手伝いができればと考えておりました。「ました。」というのは過去形の表現になりますが、いえ。今後も続けさせて頂きたいと思っております。

今回は、引退から1年を迎える節目として、本当にタイミングよく連載のテーマが舞い込んできました。そのテーマはこれ「シンクロと私」。若干、ベタなような気も致しますが、やはり私にとっては外せないものかな、と。どうぞ、お付き合い下さいませ。

「分かっていたつもり」
まさに新しい自分の目で「武田ビジョン」で、カナダ・モントリオールで開催された世界水泳大会シンクロ競技を観てきました。選手のときに感じていたそれとは全く違う、一歩離れた試合の空間。真っただ中にいるのと、そうでない場所にいるのとでは、「こうも感じ方が異なるのか」と正直驚きがありました。当然と言えば当然なのですが。

日本チームにどういう風が吹いているのか。その流れで求められる演技とは。審判員の評価と観客の評価との一致はあるのか。選手の本番直前の調整法...などなど。

私は選手の時、これらのことを把握するために、常に自分をニュートラルな状態に保つことに徹しました。冷静かつ、行くときには瞬間的に爆発できる。これを実践することが理想でした。昨年のアテネオリンピックは、自身の描く理想を実践できた最高の試合だったと思います。そう思えたから、私は心おきなく引退を決意できたのです。

しかし今回、モントリオールの地で観客席に座り、上からプールサイドを見下ろす形で試合の流れと選手達の動向を見守りながら感じたことは、「私はわかっていたつもりになっていただけかもしれない」という感情でした。

観客席からはかなりの距離を感じます。物理的にも感覚的にも。

その離れた場所から観る試合は、上で述べたことを全て把握するまでに時間はいりませんでした。以前より、より細かいところまで見えてくるのです。座りながらにして。

今回で、私はもちろんシンクロという競技の全てを見切ったとは言いません。それを言うのはおこがましいにも程があるというものです。しかし、選手のときにここまで試合を把握して臨んでいたとしたら...と想像するだけで、アドレナリンが身体をめぐるのがわかる程、おもしろいことだっただろうなと思います。

アテネの経験者が4人、新しく代表入りしたメンバーが5人の新生日本チーム。彼女達は世界の舞台で堂々とパワー溢れる演技を魅せたと思います。私を含める、周りの心配をよそに、見事に緊張を克服し自分達の持ち味を発揮していました。彼女達が表彰台でメダルを授与されているときに、もう1度先程の「試合を把握する」ことについて考えてみました。考えようとしたのではなく、勝手にふとよぎったという方が当てはまるかと思いますが。

「案外、知らなくてもいいことってあるのかもしれない...。」

新生日本チームの彼女達は、私にも話してくれていたように「頑張るしかない」と、とにかく挑戦者の気持ちで、予選からの長い競技日程を乗り切りました。「知らぬが仏」という言葉があるように、彼女達は周りより己の集中に徹し、素晴らしいスタートを切りました。きっとこれから、今回では見えなかった色んなものが見えてくるはずです。その中で惑わされず、競技者として必要なものを上手く取捨選択して、どんどん成長を遂げていってもらいたいと思います。この過程が競技者としての醍醐味だと思います。

こんな風に私がシンクロについてコメントするということは、私自身が変わりゆく自分を認知することにもなっています。自分は本当に引退し、新しい道を歩いているのだということを。目標である「シンクロにおける新しい表現の追求」モントリオールで世界水泳を観て大きな刺激とエネルギーを与えてもらいました。今この瞬間から、改めてはじめの一歩を踏み出そうと思います。私も選手の9人と共に、知らない世界を惑うことなく吸収し、また人としての醍醐味を味わいたいと思います。