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2017年01月20日

人材育成に大切なこと

私がいくつか預かってきたチームや個人の選手に対して強化を行う際、基本の概念はこれまでそう大きく変わっていない。最近の指導者を見ていると、PCソフトなどが効率化され、結果を検証し、細かなスタッツを出すことなどが容易にこそなったが、それではそれをどう利用するのかが欠落していることが多いように思える。

単純にプレーを数値化し、累積することは、プロの選手の契約を打ち切るときなどには不当解雇にならぬよう他者との比較に活用できたり、年々落ちるプレーのクオリティを証明したりすることができるため、こちらには重要な評価資料となる。しかしこの活用法は「評価」であって、「強化」ではないのだ。

重要なのは、数値化したデータから何を読み取り、そして結果を出す為の強化につなげるかである。結果を変えるには、ダメな結果につながった間違った行動を正しい行動に変えなければならない。まずは行動の何が間違っていたか正しく検証し、本人ともよく話し合うことが重要である。正しいと思われる行動がおおよそ見えれば、間違った行動に置き換え、時間を徐々に伸ばし、質を徐々に高めてより結果に影響が大きく出るように、短期、中期、長期に分けてプログラムすることが最初となる。

選手の行動を変える時に、良い行動に対し表彰する(ほめる)ことは有効である。ただ、表彰を与えることには繊細な注意が必要で、人によっては人前でみんなにお祝いされることを好む人もいるが、人前でほめられ自分が中心になることを照れくさく思う人もいる。立場を与えてもらうことをうれしく思う人もいれば、物をもらったり、食事に連れて行ってもらうことを喜ぶ人もいるのだ。

同じ物をもらうにしても、嫌いな人と好きな人からでは同じ物も違って見えたりするものである。それぞれの選手には個性と習慣があり、丁寧にそして繊細に対応することが大切である。現在、社会学の世界ではコミュニティやチーム形成時に、参加者に対して罰を与えることはタブーとされているが、時にはいくつかの権利を奪ったり、参加をさせないなどのいくつかの段階をもって罰を与えることも私は必要であると思う。

ただし、罰を与える期間はごく短く、正しい行動がわかっているのに生まれ育ってきた性質や習慣に引っ張られ、その行動を継続できないような個性に着目を置き、刺激を与えることができれば十分であると私は考える。ラグビーの場合は集団競技であり、個々をつなぎ合わせて、そのチーム力を増幅することが重要となる。計算としてはおかしいのだが、ともに連携プレーすることで、1+1=2ではなく、1+1=3となる。一貫性と規律をもってチームが決めた方針を徹底して行えば、その計算式はまるで違うリンクを生み、チーム力を何倍もの大きなものに変化させることもできる。

世界一のラグビー大国ニュージーランドでは、その強さの秘密をトップコーチたちはこう語る。「アングロサクソン系とアイランダー系を唯一融合してチームを構成することができる国であるからだ」と。ここに出るアイランダー系はトンガやサモア、フィージーなどの選手で、彼らは体が大きく強く速い特別な選手たちを多く輩出している国々である。

その大きく強い選手たちは楽観的で人のいい選手たちが多く、フロート、つまり試合中に、中に浮いたように意識のないプレーをしたり、自分の調子に合わせて休んだりするプレーを無意識に行う傾向がある。もちろんすべての選手ではないが、体力が戻れば爆発的な力を出し、休んでいる時間が長くチームの一貫性や規律に疎く、大きなミスを起こす要因になりやすい体質を持つ。

一緒にプレーをするアングロサクソン系の人々は一貫性や規律に厳しい教育を幼少から受け、徹底した合理性を身に着けている。規律と一貫性の人たちの中に、フロートする選手が入り混じると、当然チームは内部ではお互いがその秩序を乱し、崩壊へとすぐに落ちいってしまう。この両方の利点と欠点を深く理解し、ニュージーランドではその特性を生かす教育を幼少のころから心がけて行っている。

日本人はある意味どちらにも触れる性格を持つ人であふれている気がする。良い選手を育てチームを一つにまとめるには、それぞれの個性がどちらに触れているのかをよく観察することが重要である。要領の良い人は根気がなく、根気のある人は要領が悪い。双方を備える人もまれにはいるが、周りを見渡すと、人にはそれぞれ個性があることが身近なところで感じられる。

指導者は個々をよく観察し、その変化に敏感にならなくてはならない。根気や持続力を維持する為には、同じことにも区切りをつけて身近なゴールを設定し、やる気に必要な「きっかけ」と「刺激」を設けなければならない。それぞれの変化を見つめ、目標を絶えず設定し直し、成長を望み追い続けるコーチの根気こそが人材の育成に最も大切なのである。

大西一平

大西一平

大西一平おおにしかずひら

プロラグビーコーチ

1964年生まれ。 大阪工大高で花園優勝。高校卒業後1年間ニュージーランドへラグビー留学。明治大学時代には3年時全国大学選手権ベスト4、4年時にはキャプテンを務め全国大学選手権ベスト8に導く。その後…

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