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2022年10月11日

カーボンニュートラルの業界、企業の取り組み

日本でカーボンニュートラルの政策が公表されて、もうすぐ2年が経ちますが、カーボンニュートラルの考え方も業界や各企業に浸透してきています。2050年・カーボンニュートラルの達成は非常に困難な目標で、その実現のためには様々なイノベーションが必要です。今回はカーボンニュートラルの業界や企業の取り組みについて紹介します。

都市ガスとLPガスのカーボンニュートラル対応

現在、家庭や産業用の燃料として都市ガスやLPガス(プロパンガス)が使われていますが、2050年・カーボンニュートラルの実現のためには、基本的には化石燃料から得られるこれらのガスの使用を取りやめなければなりません。その対策や業界の取り組みについて、今考えられている対策例は次の通りです。
まず都市ガスについてですが、都市ガスの約90%はメタンで、その他にエタン、プロパン、ブタンが含まれています。主成分のメタンを作る方法として次の反応があります。

  • メタネーション(サバティエ反応) CO2+4H2→CH4+2H2O

二酸化炭素と水素を原料として、300~400℃の高温下、30気圧の高圧で、ニッケル触媒を用いてメタンを製造します。メタネーションの課題としましては、メタネーション設備の大型化、反応時に発生する熱の有効利用、 耐久性の高い触媒の開発などがあげられます。

都市ガスに代わるものとして、水素やアンモニアの利用もできますが、水素の爆発限界値は4%~74%で、大変爆発しやすい気体です。アンモニアも爆発性のある気体で、また毒性を持ちます。水素やアンモニアは産業などで利用が考えられますが、住宅などでの使用は不向きに思えます。
次にLPガスですが、LPガスも国民生活と経済活動に不可欠なエネルギーです。2050年・カーボンニュートラルの実現に向けて、LPガスの対応策としましては、水素と二酸化炭素からプロパンガスを合成するプロパネーションや、欧州では今後の主力とみられているバイオLPガスの利用が期待されています。
その他、現行のLPガスを使いつつ、CO₂排出量を相殺する方法として、植樹やCO₂排出権の購入も考えられています。

タクシーの電動化の動向

2050年・カーボンニュートラルの実現に対しては、現在化石燃料を使っている業界も対応を図らなければなりません。タクシー業界の対応策は次の通りです。
タクシー業界では以前よりCO2排出の削減に取り組んできています。2017年10月発売のLPガスハイブリッドのJPNタクシーが、2021年2月末現在で24,092台導入されています。現在までのところ、耐久性に優れるタクシー専用車両は、JPNタクシー以外は販売されていません。一方、LPガススタンドの廃業が相次ぎ、LPガス自動車が使えない地域が増加しています。
電気自動車の導入が期待されるところですが、航続距離と電池寿命に不安があり、大幅な導入には至っていません。
タクシーの電動化を進める際の課題としましては、ユニバーサルデザインのタクシー専用車両の開発、水素電池車、電気自動車等の車両価格の低廉化、バッテリーの性能向上、給電時間の短縮及び急な電池切れへの対応(携帯用バッテリー等からの給電)などの車両の技術開発があげられます。
また、水素や電気の供給インフラの整備、及びLPガススタンドなど既存インフラの維持・活用方策の検討などのインフラ整備や、行政からの車両、インフラ整備への全面的な支援、及び税制上の支援措置の創設が望まれます。

カーボンニュートラル、企業の対策例

インターナルカーボンプライシング(IPC)とは、企業が独自に自社の炭素排出量に価格を付け、何らかの金銭価値を付与することで、企業活動を意図的に低炭素に変化させる方法です。
インターナルカーボンプライシングを導入している企業例としまして、D社では新規設備投資によるCO2排出量をもとに、CO21トンあたり2000円を設定し、設備投資の参考データとして活用しています。2000円はEUの排出量取引制度の取引価格から設定しています。
H社では、CO21トンあたり10000円を設定し、低炭素投資効果にCO2削減金額を上乗せ、投資判断における低炭素投資の優先順位を引き上げています。10000円の価格は、EUの排出量取引とIEAの将来の炭素価格見込み等を考慮して設定されたものです。

カーボンニュートラル対策法は、業界および企業ごとに多種多様な取り組み方があります。費用対効果や経済合理性の下でカーボンニュートラルの対策が推進されることが期待されます。鉄鋼業および化学工業における対策例を紹介いたします。

まず、鉄鋼業における対策例としまして、次のような方法があげられます。

  • 主な電力需要設備効率の改善
  • 廃プラスチックの製鉄所でのケミカルリサイクル拡大
  • コークス炉の効率改善
  • 発電効率の改善
  • 省エネ設備の増強
  • 革新的製銑プロセスの導入
  • 環境調和型製鉄プロセスの導入

次に、化学工業における対策例としまして、次のような方法があげられます。

  • 膜による蒸留プロセスの省エネルギー化技術の導入
  • 二酸化炭素原料化技術の導入
  • 非可食性植物由来原料
  • 微生物触媒による創電型廃水処理技術の導入
  • 密閉型植物工場の導入
  • バイオ由来製品の導入促進

さて、カーボンニュートラルは地球温暖化の防止のために国際的に推進されている対策法です。温暖化により気候変動や異常気象により様々な災害が発生しています。2000年代になり日本では、強力化した台風、線状降水帯、集中豪雨などによる洪水、水害が多発しており、その被害は甚大です。
カーボンニュートラルは極めて困難な目標です。その達成に向けて産業や経済のあり方、国民生活の様態が大きく変わっていくことが予測されます。
コロナ禍は完全には終息していません。その中でウクライナ戦争が世界に大きな影を落としています。私たちは極めて困難な状況に直面していますが、こういう時にこそ、人類が大いなる気概を示して、厳しい時代を乗り越えることを期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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