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コラム 政治・経済

2022年07月11日

激動する世界情勢と日本経済の展望-原油高と円安-

コロナ禍の影響で、原油価格が上昇しました。さらに、2022年2月に勃発したウクライナ戦争により原油価格は一層高騰しています。また、米国の金利の引き上げの影響を受けて、円安が進んでおります。今回は原油高、円安についてふれてみます。

原油価格の変動の要因

原油価格も基本的には需要と供給のバランスで決まります。原油の減産が続きますと、原油価格は上昇し、増産が進みますと価格は下落します。また、産油国の政治的状況などの要因によって大きく変動する場合があります。中東地域での戦争や紛争が起こりますと原油価格は上昇し、平和のときは安定します。また投機によって高騰しますが、世界的な株価の暴落がありますと、それに伴って下落することもあります。

2001年に起きた米国の同時多発テロから数年で世界経済が回復して株価が上がりました。株価が十分に上がった後、世界の投機マネーが石油の先物取引に向けられました。その結果、原油価格は133ドル/バレルまでに高騰しました。しかし、世界的な投資銀行であるリーマンブラザーズ社の破綻により、株価の暴落ともに原油価格も39ドル/バレルまで急落しました。

さて、2020年の秋ごろから原油価格は上昇してきました。その主な原因は、産油国においてコロナ禍により、技術者や労働者を確保できず、生産設備の保守や整備が滞ったことによるものです。この状態は現在でも完全には解消されていません。さらに、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻の影響を受け、原油価格は現在約100ドル/バレルをこえるまでに高騰しています。

原油価格が上昇しますと、シェールガスや再生可能エネルギーなどコスト高のエネルギーの利用が増加します。また、省エネや節電対策の費用対効果が上がり、一層促進されます。ただし、自前のエネルギー資源を豊富に持たない日本では、原油価格の高騰は電力やガス、ガソリン等のエネルギー価格を上昇させ、さらには食品等の物価の値上がりに繋がります。原油価格の高騰は日本経済と国民生活に大きな影響を与えています。

米国の金利引き上げと円安

次に円安問題ですが、現在為替レートは135円/ドル前後まで円安が進んでいます。今回の円安の主たる原因は米国における金利の引き上げです。内需の強い米国ではコロナ禍後の景気の回復が早く、米国経済は順調に進みました。その結果、物価が上昇しました。いわゆる好景気によるインフレです。

物価が大きく上昇してしまうと国民生活への影響が大きいため、アメリカの中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)は金利を引き上げることでインフレを抑制しようとしています。

米国の金利が上がると、ドルを買って資金を米国に預金すると、より多くの利益が出ます。従って、ドル高になり、相対的に他の通貨は安くなります。このような事情で現在円安が進行しています。

世界では自国の通貨安を防ぐため、金利を上げる国も多いです。ただ、金利の引き上げは市中から資金を回収することになります。これは景気の引き締めに相当します。世界の国々はコロナ禍から経済の回復、浮揚を図りたいところですが、金利の引き上げは逆行する行為になります。

ここで取り上げている金利とは政策金利のことで、中央銀行が一般の銀行に貸し付ける際の金利を意味します。金利と為替レート、株価、景気の関係は次の通りです。

金利が上がりますと通貨の為替レートが上がりますが、通常株価や債券価格は下がります。これは分かりやすく考えますと、金利が上がると株や債券を買うよりも、お金を銀行に預けておいた方がより多くの利益を得ることができます。

なお、景気対策として金利を上げ下げします。景気が過熱気味になると、金利を上げ、市中の余ったお金を銀行が吸収します。逆に不況になると金利を下げます、銀行に預けてあったお金が市中に出回り、結果として景気の刺激になります。不景気の時に公共事業を増やすなどをしてお金が市中に回るようにすることを財政政策というのに対して、景気対策に金利を引き下げることを金融政策といいます。

良い円安と悪い円安、今後の見通し

円安が続いておりますが、日本においては低金利政策を長年続けており、急には金利政策を変えることは難しい状況でもあります。国債の金利を急に上げると大きな混乱が起こることでしょう。また、多くの中小企業では金利が上がると銀行の借り入れが一層厳しくなり、経営が苦しくなることでしょう。

さて、業界や企業によって円安が業績にマイナスのこともあれば、逆にプラスの場合もあります。円安がプラスの影響になる企業は輸出が多い企業で、鉄鋼、自動車、機械、建機、プラント建設、輸送用機器、海運業などです。逆に円安がマイナスの影響になるのは海外からの輸入が多い企業で、電気・ガス業、製紙、食料品、水産・農林業などです。

日銀は去る4月の決定会合で連続指し値オペの毎営業日実施を決定し、緩和縮小へ転じる可能性が低い情況です。円安材料となっている日本の貿易赤字も当面解消の見込みはありません。円安ドル高基調が収まるためには、米国のインフレが抑制に向かうことで米利上げ加速観測が後退したり、米景気減速懸念が台頭したりするなどが必要です。

年末か来年ごろには円安解消の観測があります。しかし、さらなる利上げ観測によって一層の円安ドル高が進み、140円に達したりする可能性も指摘されています。

さて、ドル高により自国通貨の暴落を心配している国もあります。基軸通貨である円は、円安の状況が続いても暴落ということはまずありません。むしろ、景気対策の面から考えると、低金利政策を続けますと、コロナ禍による景気の後退から早く日本経済の回復に寄与することになるでしょう。

今後の展望と企業の対策

ウクライナ戦争がいつどのように収束するかは予測がつきません。戦争が長引き、EUおよび日本などが原則としてロシアからの天然ガスや原油の禁輸を実施した場合には、原油等のエネルギー価格は上昇することになるでしょう。そもそも必要な量のエネルギーの確保も困難な状況になるかもしれません。これからは個々の企業においては、エネルギー高に耐えうる企業体質の改善が必要になる可能性が大いにあります。

米国の金利引き上げはいつまでも続くとは考えられません。インフレがある程度収まれば、金利の引き上げは終了することでしょう。そうなると、円安も収束していくことになります。

ただし、現状は原油高や円安、コロナ禍、ウクライナ戦争と日本経済にとって極めて厳しい情況です。こういうときにこそ、企業は収益向上を目指して企業体質の改善を行うべきです。平時に改革や改善を行おうとしたときは、関係会社や社内からいろいろと反対意見も出がちです。しかし、厳しい経済環境下では、企業の様々な改革、改善がスムーズに行えることが多々あります。

コロナ禍やウクライナ戦争で世界の情勢は激動しています。さらには原油高、円安という厳しい環境下に日本はありますが、状況が一刻も早く改善され、日本経済が早期に元気になることを期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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