2019年06月10日

日本の農業保護政策

TPPなどの自由貿易の推進が図られる中、日本の農業は厳しい環境下にあります。日本の農業をどうするかは現在極めて重要な課題です。今回は、食の安全安心の問題や食料自給率なども含め、日本の農業に関する情報を整理して理解しつつ、日本の農業(農家)の保護政策について触れてみます。

なお、今回はやや辛口のコラムになりましたが、日本の農業の将来に対して大きな期待とエールであるとご理解ください。

食の安全安心と農薬

国民には日本の農産物は安全安心との認識があります。その根拠の一つは、輸入される農産物は多くの農薬を使用して生産されているのに対して、日本では農薬の使用は少ないという認識です

しかし、日本は世界の一位、二位を争う農薬使用国であり、必ずしも日本の農産物は安全安心とは言えないという指摘があります。図1に世界各国の農薬使用量(kg/ha)を示します。

図1世界各国の農薬使用量

日本の農業は資本・労働の集約農業です。殺虫、除菌、除草のために大量の農薬を使用しているのが実情です。なお、図1のOECDの統計には含まれていませんが、中国も日本同様に大量の農薬を使用している国です。

食料自給率について

日本の農業を語る場合によく食料自給率が引き合いに出されます。ただ、日本で用いられる食料自給率に対して様々な指摘があります。その指摘を以下にまとめてみます。

まず、日本が低いと騒がれているのは、世界では用いられないカロリーベースの食料自給率ではないかという指摘です。さらに、日本の食料自給率で使うカロリーは日本国民が健康を維持する上で必要なカロリーをベースにした割合ではありません。ほとんどの国では生産額ベースの食料自給率が使われています。2014年の日本の食糧自給率は、カロリーベースでは39%、生産額ベースでは64%となっています。日本の食料自給率が39%という場合、海外からの食料輸入がすべてストップした場合に、国民の61%が餓死するという訳ではありませんが、そう勘違いしていう人もも多いのではないでしょうか。

日本で使われているカロリーベースの食料自給率に対して別の角度からの問題点の指摘があります。カロリーベースの食料自給率を分かりやすくロス廃棄供給熱量を省略して考えますと次の式になります。

カロリーベース食料自給率≒国産供給熱量÷(国産+輸入)供給熱量

上記の式によれば、日本への食糧の輸入が停止した場合は、食料自給率は100%となり、大変おかしなことです。このように冷静に考えると大変矛盾した食料自給率という数値を、食料安全保障の議論をする場合の判断指標として使うこと自体がおかしいのかもしれません。

食料自給は軍事的な安全保障と同様に極めて重要なものであるとしばしば言われます。しかし、日本に対して世界の一国でも軍事的に攻めてくると大変ですが、一国が日本への食料輸出を停止しても大問題ではないのではないかとの指摘もあります。

日本の食料自給を高めるために、TPPなどの自由貿易に反対して日本の農業を守れと言う論調があります。しかし、本当に食料の安定確保を目指すのであれば、米国などの農産物輸出国と自由貿易協定を結ぶことが重要という考えもあります。

スーパーやコンビニなどの小売りでは、売切れにならないように十分な商品を揃えますが、もし売残ると廃棄します。レストランや飲食店では食材切れで食事が提供できないことを避けるために、十分な食材を用意します。そして余った食材は廃棄します。いずれの場合もそうした方が利益が上がるので、余った食材は廃棄されます。家庭もふくめて日本で廃棄されている食材は、年間900万トンにも及んでいます。

農林水産省等がカロリーベースの食料自給率をことさら使用する日本の状況を、日本の農業を守るがためのイメージ操作の手段ではないかという厳しい批判もあります。

関税による保護か、直接支払いによる保護か

図2に各国の農家の家計収入に占める補助金の割合を示します。農業関係者の中には、日本の農家は図2に示されるように52%も補助金をもらっていないという方もいます。各国の農業は様々な形で保護されており、図2はOECDが調査した各国の結果です。

図2 農家の家計収入に占める補助金の割合

日本の農業保護政策を、コメを例にとって考えてみます。もし外国の安いコメが日本に輸入されれば、経済原理により高い日本のコメは市場から排除されます。しかし、輸入のコメに対して高い関税をかければ、日本では流通せずに国産のコメが流通します。現在輸入のコメに対する関税率は280%です。

もう一つの保護策は所得補償など農家への直接支払いによる保護政策です。この場合は外国の安価なコメが流通しますが、農家の方々の生計は補償されます。

このように農業の保護政策には主に関税による方法と、所得補償による方法があります。一般に所得補償の場合は、農産物や食料品の価格が安くなり、家計の負担が軽減されて国民には大きなメリットとなります。ただし、所得補償の場合は主に税金が充てられますので、大枠では国民や企業の負担は変わらないかもしれません。しかし、関税による保護は主に国民(家計)が負担しているのに対して、所得補償は税金を通して企業も負担することになりますので、より公平な方法と言えます。

また、世界には自由貿易の推進という大きな潮流があります。自由貿易は関税撤廃や軽減が大きな目標ですので、高い関税の日本に対して今後も大きな圧力がかかって来ることでしょう。農業保護を、所得補償を中心として関税の撤廃や軽減に努めることは自由貿易の推進の中で日本が立ちゆくことができる方法ではないでしょうか。

日本の農業の展望

日本の農業(農家)の保護は国が責任を持ってしっかりと行うべきことです。もちろん、直接支払いによる保護の場合、農家と農協の関係はどうなるかなどの課題点は残ります。日本の農政は大きな転換期を迎えています。負担の公平性の確保という視点や、国際情勢を冷静に展望した観点から改革を的確に行い、今こそ妥当と思われる方法を選択していく時ではないでしょうか。

多くのマスコミは依然として日本の農業には好意的です。日本の農業における農薬の使用量に目をつむり日本の農産物の安全安心をことさらに強調したり、また、世界ではあまり使われないカロリーベースの数値で日本の食料自給率の低さを強調するなど、日本の農業に対して味方の姿勢をとっています。

ただ、消費税が増税されて家計の負担が増す中、国内産の高い農産物や高い関税のかかった輸入農産物の購入を強いられている国民の批判の声が大きくなってきますと、マスコミの姿勢も逆転するかもしれません。そのことを懸念している農業関係者も少なからずいます。

日本の農業は、世の中の変化に対応して自らを変えていくことができるようなメカニズムを持っていないように見えます。日本の農業がカタストロフィックな変化を迎えるのではなく、現状を正しく認識している農業関係者や行政よって、国民とともに発展できる農業への変革を期待致します。