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2018年12月10日

大地震でなぜ北海道で大停電がおきたか

本年9月に北海道胆振東部地震が発生し、最大震度7を記録しました。この地震では強震動によって厚真町を中心に広い範囲で土砂崩れが発生して、多くの犠牲者が出ました。また、北海道全域で停電が発生しました。今回は、大地震による大停電の問題について触れてみます。

北海道胆振東部地震

北海道胆振東部地震は9月6日午前3時8分頃に起きました。真夜中に起きた地震でしたが、もし昼間に起きていれば動いている鉄道や自動車に大きな被害が出ていたかもしれません。

この地震では、北海道全域で停電という事態を招きました。震源地近くの苫東厚真火力発電所が地震による損壊被害を受けたことが原因でした。苫東厚真火力発電所は道内の約半分の電力を供給していました。苫東厚真火力発電所は停止したまま、他の発電所の復旧や民間発電所の協力、東北電力からの供給などにより、2日後にはほとんどの地域で停電が解消されました。しかし、需要に対して90%の電力しか供給できておらず、当面は20%の節電を呼びかけ、綱渡り的な電力供給体制が続きました。

地震予知がしっかりと行われていたか

1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災では犠牲者は6434人に達し、甚大な被害が出ました。この震災の後、地震対策が強力に進められました。地震予知の研究にも予算が投入されました。2011年3月11日に東日本大震災が発生し、死者・行方不明者は1万8434人に達しました。この地震では大津波が発生するとともに、原発事故も誘発しました。

阪神淡路大震災から16年後に東日本大震災は起きましたが、全く無警戒でした。行政も学会も地震予測に力を入れていたはずですが、事前に何の警報も注意も出されていませんでした。

阪神淡路大震災は活断層型地震で、東日本大震災は海溝型地震です。両者とも周期性がある地震です。活断層型の地震は数千年~数万年の長い周期で発生しますが、海溝型の地震は数百年程度の短い周期で発生します。東日本大震災の後、東北地方の太平洋側では過去に縄文時代、平安時代に地震による大津波の痕跡がありました。

どうして東日本大震災の前に、大きな地震の可能性があると警戒がなされていなかったのか、大いに疑問です。研究者や学者レベルでは地震予知の研究はまるで占い師が行うようなことなので、あまり力を入れてなかったのでしょうか。確かに、予測がはずれればオオカミ少年と言われることになるでしょう。また、研究者としては占い師的な研究を行うよりも、個々の地震のメカニズムなどオーソドックスな研究を行った方が、確実に研究業績があがることなのかもしれません。

北海道全域での停電について

北海道胆振東部地震では一時全道が停電になりました。被災した苫東厚真火力発電所の停止はやむを得ないとしても、他の発電所は運転を続けて、電力の供給を受けた何割かの地域で停電を回避できたのではないかとも言われています。そのようなシステムが稼働しなかった原因の究明が、今後必要です。

ただ、北海道電力では様々な負担を背負っていたことも事実です。まず、かつて全道の約40%の電力を発電していた泊原発が2011年の東日本大震災以来、運転を休止していました。泊原発が再開できるのかどうか、できるとしてもいつ再開できるのかが分からない状態では、泊原発に代わる火力発電所の新設を行うべきかどうかの判断はなかなかできるものではありません。そもそも、全道の電力の40%を担う新しい発電所の建設には、莫大な費用が必要です。また、東日本大震災の後に導入された風力や太陽光発電による電力の買取りのための諸設備の充実も、必要最小限に行わなければなりません。変電所や送電網の新設整備です。

北海道では、電力不足に陥ったときには、緊急に東北電力から電気を融通してもらうことができます。ただし、海で隔てられている地理的条件から送電線は海底に敷設しなければならず、さまざまな制約があります。過去には、海底の送電線が底引網御漁で搔き切られたこともありました。現在もそうですが、北海道は、有事に対する電力供給に関して無防備で裸の状態と言えます。

二重、三重の負担を背負いながら発電を行っているのは、北海道電力だけではありません。東日本大震災以降、ベース電源の約半分を失った日本の電力会社は、多かれ少なかれ同様の負担を背負っています。ベース電源の特徴の一つは、昼でも夜でも、また、風が吹こうが吹かまいが、関係なく必要なときに電気を供給できることです。

日本は、主として本州はじめ四島に分かれています。さらに、糸魚川と富士川を堺に、東日本では50Hz、西日本では60Hzと電気の周波数が違います。実は、周波数の違う電気を融通し合うのは容易ではなく、大規模な変電所が必要です。しかし、大規模な変電所を作るぐらいなら、融通せずに新しく発電所を作った方が合理的とも言われています。

ベース電源の欠如・不足による大停電

電気がなければ、商業の営業や工場の生産はストップします。病院の医療現場では、綱渡りの対応を強いられたことでしょう。どの産業でも、中小・零細規模の事業所では、バックアップシステムも十分でなくお手上げ状態になります。

北海道に観光に来ていた多くの旅行者の人々は、鉄道は動かずホテルは停電と、不便で不安な時を過ごすことになりました。震源地から遠く離れた場所では、地震の被害は軽微でも、停電による大きな被害を受けました。搾乳した牛乳を泣く泣く廃棄せざるをえないことも起きました。飲食店では営業はできず、冷蔵庫・冷凍庫を使えず傷んだ食材は廃棄を余儀なくされました。

在宅医療機器を使用して生活もしくは療養していた方々には、停電は極めて深刻な事態であったと思います。また、緊急に自家発電装置を使用して一酸化中毒により亡くなられたという痛ましい事故も発生しました。

少子高齢化社会をむかえ社会保障の拡充のため消費税が値上げされ、国民の負担が一層増しています。そのような中、東日本大震災後に電力料金が民生用で約3割、産業用で約4割値上がりしています。電力料金は高騰している中、電力事情は不安定という状態が続いています。

ベース電源が十分に確保できていない日本においては、また何かあれば苦しむ国民です。国民本位のエネルギー行政を切に期待いたします。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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