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コラム 政治・経済

2018年05月10日

EUの厳しい環境規制

EUでは次々と厳しい環境政策を実施しています。EU加盟国の企業はもちろんのこと、EUに対象製品を輸出する世界の企業は厳しいEUの規制に従わなければなりません。今回はEUの厳しい環境規制についてふれてみます。

EU(欧州連合)

EUには現在28ヶ国が加盟しており、総人口は約5億人です。EU全体のGDPは米国よりも大きく、経済や産業については共通の規則を採用しています。EUでは多くの国が統一通貨ユーロを使用し、財やサービス、資本、人の移動が自由な単一市場を形成しています。

EU理事会はブリュッセルに置かれていますが、EU議会はフランスのストラスブールにあります。EUの各機関は地理的に分散して置かれています。

ELV指令(End-of Life Vehicles Directive)

ELV指令とは、使用済み車両に関する2000年にEU議会とEU理事会から出された指令の通称です。自動車からの廃棄物が出ることを防止または削減するために、使用済み自動車やそのコンポーネントの再利用や再生利用をすること、および、使用済み自動車の処理業者が効率よく処理できるようにすることを目的とした指令です。ELV指令のポイントは次の5つです。

  • (1)有害物質の使用禁止:部品や材料に、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムが含まれていてはなりません。
  • (2)取り除く部品を指定:使用済み自動車を処理する際、まずはコンポーネントをすべて取り外さなければいけません。
  • (3)目標リサイクル率:再利用率・再生利用率、リカバリーが指定されています。
  • (4)回収・処理システムの確立:処理証明が自動車の登録抹消に必要です。使用済み自動車を回収するための費用は製造者が負担します。
  • (5)使用済み自動車の無償引取り:使用済み自動車の回収時に所有者に対する費用が発生しない仕組みでなければなりません。

EU指令(Directive)

EUにおける指令はEU独特の制度ですので、少し説明をしておきます。

EU指令とは加盟国に対してある目的を達成することを求めるもので、EU法や規則とは異なるものです。各国は指令に対応しなければなりません。もし加盟国が対応せず、国内の法整備を未施行であるためにEU内の企業や個人が不利益を被った場合、当該加盟国はその賠償の責を負うことになります。

前述のELV指令のほか、EUでは2003年に電気・電子機器の廃棄に関するWEEE指令、電子・電気機器における特定有害物質の使用制限についてのRoHS指令が発令されています。EU以外の国の企業も、EUへ製品を輸出する場合はEU指令を順守しなければなりません。

なお、EUの理事会は内閣(行政)のような役割を果たしますが、EUの歴史は浅くて議会と理事会の役割分担がまだはっきりと確立されていません。このような事情からEUでは規則や指令はEU議会とEU理事会の連名の形で出されます。

REACH法

REACH法とは、EUにおける人の健康や環境の保護のために化学物質とその使用を管理するために2007年に施行された規則(法律)です。登録(Registration)、評価(Evaluation)、認可(Authorisation)、および規制(Restriction)を化学物質(Chemicals)に適用するものです。REACH法の重要な基本理念は次の7つです。

  • (1)ノーデータ・ノーマーケット:データ登録されていない化学物質は市場に出せません。
  • (2)安全性の立証:製造者は安全性を立証する義務があります。
  • (3)立証責任の移行:行政の危険性の立証から、製造者の安全性の立証へ移行しました。
  • (4)予防原則:安全について不確実性がある場合は、予防措置をとらなければなりません。
  • (5)代替原則:代替物が入手可能な場合には、より危険性の少ない物質によって置き換えなければなりません。
  • (6)情報公開責任:登録された物質情報は原則、一般向けにインターネット上で公開しなければなりません。
  • (7)一世代目標:問題ある化学物質を2020年までに(=今の世代に)なくすという強い目標を掲げています。

厳しい環境規制、EUのねらい

EUが環境規制を強化するねらいを探ってみますと、社会・政治面では、EUで直面する様々な環境汚染への対策、EU社会における環境志向の文化・風土に合致、躍進する環境政党の政策に合致などをあげることができます。 産業・経済面では、EUにおける環境分野での技術革新の促進、環境関連分野での国際競争力の強化などをあげることができます。

グローバルスタンダード化するEU規制

EUの環境規制の強化は世界経済にマイナスの影響を与えると、各国から非難の声もありますが、EUに製品を輸出する限り、世界の企業はEUの規制に従わなければなりません。日本も含め各国は政府レベルでもEU規制対策を行っており、EU規制はグローバルスタンダードになろうとしています。

EU規制は、EUに製品を輸出するセットメーカーだけが守ればよいと言う訳ではありません。REACH法を例に考えてみます。セットメーカーに部品を納める企業もREACH法に従い、部品の中に有害物質が含まれないようようにしなければなりません。さらに、部品メーカーに原材料を納める企業もREACH法に適合した原材料を納めなければなりません。

また、一つの企業の中においてもこれまで以上の取組みが必要になります。化学物質の的確な情報収集のためには、材料や部品の調達を調達部門が行っていたものが、総務や経営の管理部門、製造や設計の技術部門との協力が必要です。また、自社製品のPRや販売を営業部門だけで行うのではなく、総務や技術部門と協力して、化学物質の情報を的確に販売先に伝えなければなりません。

日本にとってEUとの貿易量は、中国、米国に次いで3番目に大きな相手です。日本企業の自動車や機械がEU内で多く販売されています。製造業の大手企業のみならず、その協力会社や下請けの中小企業もEUの厳しい規制をよく理解して、的確に対応していくことを期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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