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2018年04月10日

TPP11と自由貿易の推進

12ヶ国が参加予定であったTPPから米国が離脱しました。しかし、去る3月8日に残りの11ヶ国によってTPP11の署名式がチリで開催されました。TPP11ではTPPで大筋合意されていた関税撤廃の約束はすべて維持されました。ルール分野では、米国が関連していた22の項目の効力を当面凍結になっています。

TPP11は11カ国のうち6ヶ国以上が国内手続きを終えれば発効します。日本政府は本年3月中に承認案と関連法案を国会に提出し、6月までの可決を目指します。TPP11は2019年には正式に発効される見込みですが、今回はTPP11と自由貿易推進の意義についてふれてみます。

自由貿易の推進の意義

最初に、TPPなどの自由貿易推進の意義を整理して確認しておきたいと思います。20世紀の初頭に第一次世界大戦と世界恐慌を経験した世界は、保護貿易主義に陥りました。米国は、米国と米国の植民地の商品を守るために関税を上げました。対抗してイギリスやフランスも自国と植民地の商品を守るために同様に関税を上げました。こうして世界貿易は縮小して行きました。イギリスや米国、フランスなどに比べてほとんど植民地を持たないドイツやイタリア、さらに日本は厳しい経済環境に直面します。

このような保護貿易主義の進展が第二次世界大戦を招いたという強い反省のもと、戦後は世界の平和と繁栄のために自由貿易の推進が国際的に取り組まれました。現在、世界では、2国間、多国間合わせて二百を超える自由貿易協定が結ばれています。自由貿易の推進は世界の大きな潮流です。ASEANやEU(欧州連合)、NAFTA(北米自由貿易協定)なども自由貿易協定の一種です。また、APEC(アジア太平洋経済協力)も将来は大きな自由貿易圏を作る構想を持っています。

さて、国際分業とは、国際社会においてそれぞれの国が相対的に割安で生産できる物を、互いに多く生産して輸出し合い、互いの国家において生産する場合よりもコストを削減することを目的として行われる体制です。国際分業は、世界の経済厚生を得ることができます。経済厚生とは、経済的な最大多数の最大幸福を得ることです。日本は工業が発達しており、優れた工業製品を海外に輸出するという形での国際分業を行ってきました。

TPPとは、TPP11とは

TPPとはTrans-Pacific Partnershipの略で、環太平洋経済連携協定と呼ばれています。アメリカ、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、ベトナム、シンガポール、ブルネイ、日本の12ヶ国が協定の締結にむけて協議を重ねました。日本は2013年に12番目の国として協議に参加し、2015年10月に12ヶ国の間でTPPに関し大筋合意に達しました。TPPでは、関税の撤廃と削減の他、貿易ルールや知的財産など幅広い分野で規則が取り決められています。TPPにより12ヶ国間の貿易が増え、参加国の経済発展が期待されていたところでした。

TPPでは日本からの自動車や自動車部品、機械の輸出量が増えて、日本の製造業の振興が期待されていました。また安価な農産物や食料品が輸入され、日本の食品加工業、流通、外食等の振興が期待されていました。しかし、トランプ新大統領は2017年1月の就任直後にTPPからの離脱の手続きをとりました。米国のGDPは、TPP参加予定国全体の約65%を占めていました。日本は米国で多くの自動車や機械を売り、逆に多くの農産物を輸入していました。日本にとってTPPとは米国との貿易と言っても過言ではないほど、日米の貿易量は群を抜いて大きいものです。米国が離脱することにより日本にとってはTPPの経済的メリットは激減します。

将来米国がTPPに復帰することを期待して、米国以外の11ヶ国が協議を続けた結果、TPP11として去る3月8日に署名式が行われました。TPP11の基本はTPPと変わりませんが、米国が関係する条項は取り除いた形になっています。

なお、自由貿易の恩恵を最も受ける国は、世界一の経済大国である米国です。また、トランプ大統領は共和党の候補者でしたが、米国の共和党は伝統的に自由貿易を推進してきました。このような事実を考えてみますと、トランプ大統領が保護貿易政策をとる方針はまことに理解に苦しむところです。

トランプ政権がTPPに復帰するかどうか

昨年1月にトランプ大統領は就任早々にTPPからの離脱に署名しました。しかし、本年1月にトランプ大統領はテレビのインタビューで、「かなり有利な協定にできるのなら、TPPを受け入れる」と述べました。はたして、米国がTPPに復帰することはあるのでしょうか。

私はトランプ大統領がTPPに復帰することはないものと考えています。理由ですが、まずテレビインタビューは行われたのは、トランプ大統領がダボス会議に出席する直前でした。ダボス会議は世界の発展のために、グローバル経済の諸問題について討議する会議です。TPPのような自由貿易協定を否定することは、グローバル経済を否定することになりますので、ぞうではないというポーズを示したかったものと思われます。そもそも、「かなり有利な協定にできるのなら、…」という条件付きです。TPP関係国は、米国とともに一度合意に達したTPPの内容は変えないと表明しています。

また、トランプ大統領はTPP離脱を選挙公約として一昨年の大統領選挙に当選しました。2年後にある大統領選挙で再選を果たすためには、公約はしっかりと守らなければならないでしょう。トランプ大統領が再選されれば、さらに4年間はTPPへの復帰はないことと考えられます。

経済分野における日米関係は、当面日本は辛抱することになり、機会があれば米国にTPP復帰を説得することになります。ただ、2年後にトランプ大統領が再選されれば、さらに辛抱は4年間延びることになります。厳しい見通しですが、日本や世界にとって良い方向に進むことを期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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