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コラム 政治・経済

2013年01月10日

日本の国家のあり方を、対中関係から考えてみる

新しい年、2013年が始まった。日本という国家は今後どうあるべきなのか。昨年末の総選挙で安倍政権が成立し、日本のメディアはこぞって新政権の政策分析に走った。新年に取り上げられた主要なテーマは次の2つだった。一つは「日本経済の復興」、つまり長年続いたデフレ経済から如何に脱却し新たな経済成長を実現するのか。二つめは「日本の外交建て直し」、つまり経済大国としての影響力が減少した日本は、中国や近隣のアジア諸国とどのように付き合っていくべきなのか。

しかし重要なテーマであるにもかかわらず、何故かあまり語られなくなったものがある。そのひとつは「原発問題」だ。一昨年の大地震を契機にして今後の日本のエネルギー需要をどのように満たしていくべきか、原発は是か非か?総選挙でも争点になったこの問題は、自民党政権になって一気にトーンダウンした感がある。原発問題に関しては、新政権がどのようなスタンスを打ち出してくるか、今はまさに様子見の状況にある。

もうひとつ、日本では毎年新年にはずっと語られてきたのに、今年は何故か取り上げられることが少ないと感じているテーマに「国家ビジョン」がある。日本に国家ビジョンが欠けているという議論は語られ始めて久しい。民主党への政権交代で日本国民はこのテーマへの取り組みに新たな期待をしたと思う。しかしその期待はすぐに裏切られる結果になった。民主党は外交や国民生活問題などでかえって以前よりも日本を混乱させてしまったと言える。だから今、日本国民にはこのテーマに対する”疲労感”が漂っている。

「原発問題」も「国家ビジョン」も今の日本にとって極めて重要な問題だ。私はこのテーマを”中国との関係”の中で考えてみたい。なぜ中国なのか?本来国家の重要な課題は他国とは関係なく自らが決めることだ。しかし現在の隣国中国は、そうした指摘を凌駕するほどの影響力を持っているのが現状だ。

先の党大会で新たに共産党総書記になり、まもなく国家主席となる習近平氏は、就任時の演説で「中華民族の復権」を強調した。誤解を恐れずに言えば、中国は今後、大国として復権するためには”手段を選ばない”と宣言したようなものだ。好むと好まざるに関わらず、中国の今後の行動は日本という国家の行く末に大きな影響を及ぼすだろう。だから日本の政策や国家ビジョンは、この”異形の隣国”を考慮せずには成り立たないのだ。日中関係は、かつてのフランスとドイツのような一定の価値観の共有ができるもの同士ではないのである。

まずは「原発問題」。あまり報道されないが中国は今、原発の建設ラッシュだ。ある情報によれば現在30基以上の原発建設に着手している。このことは日本企業のビジネスチャンスになるという”表”の側面と、世界の逆を敢えていく中国の国家戦略という”裏”の面が隣合わせになっている。今は数基の原発が稼働しているだけだが、そのうち中国は世界一の原発稼働国になる。

中国の原発推進の最大の理由はエネルギー需要であり、また地球温暖化対策にもなる。しかし中国は西側先進国が原発稼働の課題に直面して躊躇している間に、軍事技術への応用も睨んでこの分野での技術リーダーになろうとしている。私は批判されることを覚悟で敢えて言いたい。この危険な隣国を目の当たりにして、日本が「原発ゼロ国家」を目指す選択肢はとても考えられない。日本が今、軍事力を再強化するコストやそのことの隣国への影響度に比べれば、現在の原子力技術の安全性や制御性を高める努力の方がどれほど戦略的に価値があるか、ぜひ皆さんも考えていただきたい。

もうひとつ、私は中国との関係でぜひやって欲しいことがある。それは日本のマスメディアの「自己改革」だ。日本は言論自由の民主主義国家であり、新聞やテレビなどのマスメディアの質が低いとは決して言わない。しかしこと対中関係を考えた場合、日本のマスメディアはもっと日本の「国益」を考えてしかるべきだと思う。日本の情報は中国に筒抜けで、一方中国の国民には日本についての”都合のよい情報”しか伝えられない。いわゆる「情報の非対称性」だ。日中のマスメディアはその役割が決定的に違うことはわかる。しかしだからこそ、日本のマスメディアは中国に関する報道に細心の注意を払ってもらいたいのだ。

読売、朝日、日経など日本の新聞は世界でも群を抜く購読者数だ。中国と違って日本人はある程度マスメディアへの信頼感がある。だからこれらのマスメディアの記事は日本国民に大きな影響力を持ってしまう。私はある在中国の日本の新聞社の特派員に訊ねてみた。中国での取材、執筆活動に際して会社としての方針を確認し合う場はあるのかと。この記者はこう答えてくれた。「当社に特にそのような場はない。取材時の行動規範や記事の最終チェックはあるものの、各記事は概ね記者のモラルや良心に任されている」

私は日本のマスメディアも、もっと日本の国益を考えて記事を書き、良い意味でのオピニオンリーダーになって欲しいと思っている。こう言うと私の周りの記者たちは、みんな色をなして反論する。「我々は日本国民の知る権利を重視し、客観的事実を書くだけだ。世論誘導に結び付くようなことはしない」。しかし日本の外交が危うい時に、果たしてこのままでよいのだろうか?私は大いに疑問がある。

日本の将来像を考えるにあたり、隣国中国の動向を気にしなければならないというのは悲しい現実だ。本稿のテーマは『ヒントは北京にあり』だ。中国の北京政府の”一挙手一投足”をしっかり日本の方に伝えていくことが、私に課された重要な役割だと思っている。

松野豊

松野豊

松野豊まつのひろし

日中産業研究院代表取締役

1955年大阪生まれ。京都大学大学院工学研究科衛生工学課程修了。株式会社野村総合研究所経営情報コンサルティング部長を経て、2002年に野村総研(上海)諮詢有限公司を設立(野村グループで中国現地法人第1…

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