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2010年02月12日

内田裕子の「納得!知っ得?日本の経済」

【今月の経済講師】
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内田裕子/経済ジャーナリスト
玉川大学芸術学部演劇専攻卒業後、大和証券に入社。トレーダーを経験後、同社の社内TV放送のキャスターに抜擢され広報部へ異動。その後、大和インベスターリレーションズで企業IRのコンサルティングを経て、2000年、財部誠一事務所にて、経済ジャーナリストとしての活動を始める。

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「中国経済の実態とメード・イン・ジャパンの再評価」

先月、イギリスのBBC放送が、2010年、中国のGDPは日本を抜いて世界第ニ位になると伝えた。中国に関する様々なデータは信憑性が高いとは言えないので、日中逆転の瞬間がいつかは正確にはわからない。しかし、2030年には米国を抜いて世界第一位の経済大国になるというのだから、中国経済が日本を抜くということはその過程のささやかな出来事に過ぎないのだろう。

中国の躍進はこれからが本番だ。世界中のマネーが投資先を探している中、主要国のなかでプラスの経済成長が予測されているのは中国だけだ。つまり今、一番安全な投資先は中国ということになる。お金というのは常に安全なところに逃げたがる。投資家の目線で見たら、不良債権に苦しむ欧米への投資はリスクが高く、中国以外の投資先を見つけることのほうが難しいというのが本音であり、しばらくは中国の独り勝ちが続くだろう。

こうなると、これからの世界経済は否が応でも中国を無視することはできない。日本も中国の需要を取り込むことなしに成長戦略を描くことは難しい。
中国へ取材に行くたびにその発展の勢いに圧倒されてしまう。
例えば、万博の開催間近で賑わう上海で、虹橋総合交通センターというプロジェクトが進んでいる。これは主要な交通機関を上海の虹橋空港周辺に集めて大ターミナルを築こうという計画だ。飛行機はもちろん、リニアモーターカー、新幹線、地下鉄、高速バス等、全ての交通を集結させる。世界中から訪れる外国人を中国全土へ運び、中国全土から集まる中国人を世界中に送る基地になる。さらに外国人向けオフィスや高級マンション、商業施設なども併設される予定で、上海の街のど真ん中に「巨大ターミナル都市」を造ってしまおうという計画だ。上海万博だけでも十分に賑やかなのに、それと並行してとてつもないプロジェクトが動いているのは驚きだ。

この発展ぶりは都市部だけの話ではない。昨年12月に中国内陸部である四川省・成都市に取材に行ったが、驚いたことに東京23区がすっぽりと入ってしまう広大な敷地に巨大な工業団地が造成されていた。国内外の主要な製造業の工場を誘致しようという計画で、北京政府も認めた国家級プロジェクトだという。中国内陸部にまで凄まじい勢いでお金が動いていることを目の当たりにした。

その際にイトーヨーカ堂の成都店を訪ねたが、中国人の消費意欲にも仰天した。連日、開店前から客が押し寄せては食料品や衣料品を買い求めている。以前とは比較にならないくらい商品の選択肢が増えたことが、彼らの購買欲を助長させている。

買い物客と話をする中で、「日本のスーパーなのだから、品質の高い日本製品をもっとおいて欲しい」という声が聞かれた。中国内陸部でもすでに品質へのこだわりが始まっていることに心底驚いた。特に日本製品への憧れは私たちが想像している以上のものだ。

これは日本にとってチャンス以外のなにものでもない。
香港や上海では今、化粧品のファンケルが「無添加」という高付加価値商品として評価され大人気になっている。東京に観光にやってくる中国人が行きたい場所のひとつに上げるのが銀座のファンケルビルだという。理由は中国で買うよりも、銀座で買ったほうが安いからだそうだ。そこまでしてファンケルを求める理由は何かと、店舗を訪れている中国人客に尋ねたら「中国で無添加と言っても誰も信用しません。日本の会社なら品質は間違いないと多くの中国人は思っているのです」。

他にも、大和ハウスが蘇州で展開する日本式マンションが注目されている。中国ではマンションはがらんどうで売るのが普通だが、日本では内装をすべて完成させてから販売するのが当たり前だ。大和ハウスの中国で販売するマンションは、照明やキッチン、風呂トイレなど、すべて日本メーカーで揃えている。これが中国人にとって「高付加価値マンション」として魅力的に映るというのだ。

今、中国で「メード・イン・ジャパンの再評価」という現象が起こり始めている。
ここで例に挙げた化粧品もマンションも共にマーケットが縮小する日本では成長戦略は描きにくい。しかし一転、中国に持っていくと、それらは非常に価値の高い製品として熱烈歓迎されるのだ。日本人がもう当たり前と感じている製品や技術は、中国人にとっては新鮮な気持ちで受け止められている。
「いまや品質や製造工程など、日本人以上に日本製品の本質を理解しているんです」とファンケルの広報は苦笑いする。

今、日本製品はグローバル経済下の価格競争に押されて、自らが持っている強みを捨てようとしている。しかし、”メード・イン・ジャパン”の出番はもうそこまで近づいている。高度成長期に入った中国は戦後の日本と同じく、豊かになるに従って高品質の製品を欲しくなるのは目に見えている。その際に中国人がいくらお金を出しても手に入れたいと思うような輝かしい製品を、果たして我々日本人は提供できるのだろうか。

グローバル経済の下、低価格競争に翻弄される”メード・イン・ジャパン”だが、日本の製造業はこれまで積み上げてきた技術をもとにした繊細なモノづくりを決してやめてはいけない。

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