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2015年09月01日

情報こそが生死を分ける(その2)

前回のこのコラムで1985年の日航機墜落事故を取り上げた。情報が錯綜したために墜落位置を特定するのに時間がかかったという話である。現在ではGPSという便利な道具があるから、もっと素早く正確に位置を割り出せるかもしれない(もっともGPSに頼っている分だけ、もしもGPSが故障したらもっと大混乱に陥るだろうが)。

日本もいつの間にか「防犯カメラ大国」になったようだ。2005年、ロンドンで爆弾テロが発生したとき、防犯カメラの映像解析は犯人逮捕に大きな力となった。当時、ロンドンでは、1日外出すると何千回も防犯カメラにとらえられるという話を聞いたことがある。おそらく日本でも大都会なら何度も撮影されているはずだ。大阪寝屋川の中学生殺人事件では防犯カメラが少ないことが話題になり、地元商店街は増設を決めた。

防犯カメラの増設は情報源としては重要だが、二つの問題が残る。ひとつはいざというときにカメラ映像をどう収集するかということ。もうひとつは、そこに含まれる個人情報をどうするかということだ。

現在は、警察が防犯カメラの管理者に頼んで画像を収集しているそうだ。これがもしネットワークで収集できるようになれば、ずっと作業も効率化されるに違いないし、カメラの設置場所が把握できていれば、周辺画像をすべて洗い出し、車の特徴なり人相や体格の特徴なりを入力して検索することも可能だろう。顔の識別ソフトはかなり強力になっているようだから、寝屋川の事件のような場合は、前歴者に的を絞った検索もできるかもしれない。

ただここで問題も生じる。防犯カメラには普通の人も写っている。というより、ほとんどは捜査中の犯罪とは関わりのない人だ。そういった人まで何時にどこにいたかを警察によって捕捉されてもいいのかという問題もある。ましてそこにいたことが明らかになると、まずいというケースもあるだろう。犯人の目星がある場合はまだいいが、怪しげに見える人を一人一人事情聴取するなどという話になったら大変だ。中には事情を話せない人もいるかもしれない。

「無実だったら何も心配することはない」などと言うのは、人の基本的な権利についてまったく無知であることを証明しているようなものだ。本来、われわれは移動の自由があり、その移動について誰からも説明を要求されない権利がある。ある時間にそこにいた映像があるというだけで警察から説明を求められるようなことがあってはならないのである。

そのあたりのルールが明確に定められない限り、防犯カメラのネットワーク化を現実のものとしてはならないのかもしれない。もし国家が自由に防犯カメラにアクセスし、自由にその画像を入手して解析できるということになったら、それは安全な社会というよりは「監視社会」だと思う。

それでも社会では情報のネットワーク化はどんどん進む。そのほうが効率よく情報を探すことができるからだ。その波に乗り遅れれば(日本全体がやや乗り遅れ気味だと思うが)競争上不利になることだけは間違いない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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