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コラム 政治・経済

2010年03月05日

回復はまだ先?

いま一番気になるのは何と言っても日本経済に二番底はあるのか、という問題である。最近までは二番底を懸念する声が大きかったように思うが、このところは昨年第4四半期の数字が年率で前期比1.1%(年率換算4.6%)と比較的高かったことで、何となく楽観的になっているように見える。

しかし問題はいくつか残されていると思う。まずこの成長をもたらしたものが、大きく言ってしまえばアジア諸国の景気回復に伴う輸出の増加と政府最終消費支出に支えられたものであるということだ。もちろん家計の最終消費支出も前期比0.8%増となっているから、その貢献も大きいのだが、家計の支出を支えているのはエコポイントやエコカー減税などの政府の施策である。

輸出の見通しが暗いということではない。中国やインドを始めとして、アジア諸国の景気はV字型回復を遂げている。インフレやら不動産バブルといった懸念材料はあるとはいえ、この勢いがそう簡単にしぼんでしまうわけではない。

問題は国内要因だと思う。一つは雇用だ。失業率は相変わらず高止まりしている。全般的に企業はまだ雇用を増やして生産を拡大するところまで達していない。需給ギャップが35兆円から40兆円もあるという状況では、企業は基本的に生産設備の合理化を進めることはあっても、設備拡張には動かない。むしろ設備の集約化、合理化を進めようとするだろう。そうなれば失業はさらに増える。

キリンとサントリーの経営統合は破談になったが、日本の状況をよく説明できる。もし経営統合すれば何が起こったか。キリンとサントリーの経営は強固になり、世界市場で戦える体質に転換することが可能になっただろう(もちろん両社首脳の狙いはそこにあった)。しかし、同時に国内では工場の集約化、すなわち一部工場の閉鎖や営業網の合理化が進んだはずだ。実際、キリンは今年2工場を閉鎖すると発表していた。要するに、日本企業が成長するためには、成長力が著しく落ちている日本市場から世界に展開しなければならないということを如実に示しているのである。

企業の論理から言えば当然である。市場全体が成長しないマーケットは魅力がない。そのようなマーケットにこだわることは、経営者として許されないことである。だから国内の工場を統合して閉鎖し、国外に生産拠点を移すということが当然の選択になる。

輸出をすればいいと言っても、「成長力の取り込み」を狙う東南アジア市場では、従来のような高級品だけで勝負しても勝算はあまり大きくない(もちろんブランドが浸透している商品や、高級品しか要求されないような分野は別である)。かといって普及品に拡大すれば中国などの新興経済国とまともにぶつかる。コスト競争力ではそう簡単に勝てないのである。そうなれば現地生産に踏み切ることになるだろう。日本の生産力が生かされるわけではないのである。

だからこそ、内需を引き上げなければならない。よく日本人はもういろんなモノを持っているからそれほど需要は伸びないということが言われる。たしかにモノに限っていえばその通りかもしれない。しかしサービスはどうだろう。たとえば観光。日本人にとっても、日本国内にまだまだ見るべきところはあるだろうし、外国人を誘致できればそれこそ「内需」の拡大である。

先日、札幌に行った。狸小路というアーケード街を歩いて驚いた。周りから聞こえてくるのはすべて中国語だったからだ。家族連れやグループなど、さまざまな中国人が土産物を買いながらアーケード街を歩いている。食事に入れば、家族連れがどう見ても何万円もしそうな料理を頼んで舌鼓を打っている。こういった観光客は果たして効果的に取り込まれているのだろうか。

聞けば、中国人の海外旅行客は年間で4500万人に達するという。しかし日本に来ているのはそのわずか2%の100万人にしかすぎない。もしこれを10%にすることができれば、年間で450万人から500万人の中国人観光客が日本を訪れ、日本の電気製品やら食品を買って帰ることになる。その買い物の金額も半端ではあるまい。

それでは日本に中国人観光客を呼び込む努力をしているだろうか。東京でこそ駅の看板は英語、中国語、韓国語で表示されているが、観光地はどうだろう。家電量販店はすでにいくつかの言語で店内放送をしているだけでなく、それらの言葉を話す店員も配置している。日本全体でそれぐらいの商売気を出せば、観光客を増やすこともそうむずかしくはないと思うが、いかがだろうか。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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