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コラム 政治・経済

2014年09月03日

暗雲に覆われる日本経済の明日

しばらくの間、100円をちょっと上回る水準だった円の対ドル相場が、円安に振れ始めた。今後、これがどう動くのかはもう少し様子を見なければわからない。ただアメリカと比べた場合、円高に戻る要素はないとある専門家は語っているので、ひょっとすると110円を目指す動きになるのかもしれない。

ニュースでは決まり切って「円安で収益が回復する輸出関連企業が買われ、株価は上昇した」と報じられる。しかし本当にそうか。

前回のこのコラムでも書いたが、日本の企業とりわけ海外に市場をもつような企業は生産拠点を日本の外に持ち出している。理由は単純である。日本の市場規模が伸びなくなっているからだ。その傾向は自動車に典型的に表れている。来年の市場規模はピーク時に比べると6割でしかない。

こうした傾向がすべての産業に当てはまるわけではない。たとえば老人を対象にするような商品やサービスは企業としても産業としても大きくなるだろう。それでも日本経済全体としては縮小圧力から逃れることはできないのである。

その理由は人口だ。全体の数と人口構成の二つである。全体の数は21世紀に入ってから減り始めた。もう一つは生産年齢人口だ。15歳から64歳の数はすでに1990年代末から減り始めている。

あるところで、この生産年齢人口の減少が経済にどういった影響を与えるか、専門家に聞いた。彼はリフレ派、要するに金融緩和によって経済を浮揚させることができるという論者である。その答は、生産年齢人口が減るならば、女性労働力の活用や定年延長、労働生産性の向上を図れば、解決できるだろう、というものだ。

もちろん生産という面から見ればその通りかもしれない。しかし、物を作ってもそれを買ってくれる人がいなければ企業や産業は成立しない。生産年齢人口が減るということは、多くの場合、賃金という形での労働者への分配が減るということを意味する。それは消費者が買う力を減少させることにつながる。

実際、今年の政府が賃上げを産業界に要請したこともあって、賃金は多少増えた。それでも4月からの消費税引き上げを補えるところまでは上がっていない。そのため消費増税前の駆け込み需要の反動が消えているはずの7月になっても消費は増えていない。

人口減と賃金減という二つの要素を、全体に空洞化しつつある日本の産業で吸収するのは非常に難しい。しかもこれは日本だけでなく、世界の先進国が抱える問題でもある。急成長してきた隣国中国ですら、生産年齢人口は来年から減り始める。一人っ子政策を部分的に緩和し始めたのもそれが理由だ。

その意味では、アベノミクス第3の矢を世界が注視していた。成長の限界をどのように打破しようとするのか。日本が世界の先進国にとって指標となるのかどうか、見守っていたのである。もちろん第3の矢が「構造改革」である以上、そう簡単に効果が現れるわけはない。しかしそこに示される日本のあるべき姿は何か、世界が注視していたのはそこだ。

いまのところ、そのテストに安倍政権が「合格」したとは言えない。ある外国のメディアは「矢」というより「鍼」みたいだと酷評した。1000本も鍼をうてば、そのうちの数本ぐらいは当たるだろうと揶揄したのである。

そうした失望感が今回の円安の背景にあるように見える。「異次元の量的緩和」によって確かに異常な円高は是正された。GDP(国内総生産)の2倍という借金を国が抱え、これだけ毎年国債を発行しているにもかかわらず、長期金利は極めて低水準にある。

それをいいことに、本来やるべき財政再建や社会保障改革を後回しにしているように見える安倍政権のやり方に疑問符がつきつけられているのだと思う。一部で言われているような円安、株安、債券安の「トリプル安」にすぐに落ち込むとは思わないが、そうなるまで時間はそんなに残されていないと思う。

安倍政権になって株価は確かに5割以上上昇したし、円は安くなった。しかし貿易赤字は続き、月によっては経常収支すら赤字になっている。つまり日本経済が全体として赤字だということだ。エネルギー資源のない日本にとってこんな状態はサステイナブルではない。それをどう打開するのか、期待すべきは安倍政権ではなく、ポスト安倍なのかもしれない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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