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コラム 政治・経済

2013年08月05日

安倍政権の岐路

参院選は大方の予想どおり自公の圧勝(民主を始めとする野党の惨敗というほうが正確かもしれない)に終わった。これで衆参ねじれが解消し、腰を据えて政権運営ができるようになった。国民は、痛みの伴う改革を進めようとした小泉内閣以来の「強い内閣」を期待していいのかどうか。それが今後のポイントである。

党内基盤をほとんどもたなかった小泉首相。なぜ2001年から2006年という長期政権を維持することができたのか。その理由は明白だ。2001年に登場したとき、「郵政は民営化する。古い自民党はぶっ壊す」と声高に宣言したからである。「ぶっ壊す」が具体的に何を指すのか、郵政民営化以外はそう明らかではなかったと思うが、国民には既得権益を打破して、日本を改革するという期待が生まれた。それが高い支持率につながった。

今回の選挙について、これで「改革の態勢が整った」という書き方をしている海外メディアが多い。そして多くの国民もそう期待している。しかし肝心の安倍首相はどうか。絶対に勝たなければいけなかった参院選を前に、国民に痛みを強いるような改革については、ほとんど口をつぐんでいたと言ってもいい。

消費税についても、麻生副総理は「予定どおり上げる」と明言したが、安倍首相は「今年4~6月期の数字を見て秋に決めたい」という主旨の発言を繰り返した。しかし実際のところ、増税を先送りする余裕はない。

どのような改革であれ、それは既得権益を奪うことになる。そして現在の日本に必要な改革は、国民から既得権益を奪うということに他ならない。増税もそうだし、社会保障改革も「給付の削減」とは既得権益を奪うことである。厚労省は来年度から70~74歳の医療費自己負担分を2割にする(制度上は2割だが暫定的に1割にしていた)としている。法律で決めたことの実行を先延ばしにしてきたのは政治家だ。これが国民から既得権益を奪うのがいかに難しいかを如実に示している。

安倍総理には「覚悟」が必要なのだ。財政再建一つとっても、今予定されている消費税引き上げですまないことははっきりしている。最大でおそらく25%ぐらいまで引き上げなければならないだろう。その道筋を示すのは、安定多数を確保した安倍首相でなければならない。もちろん経済成長が確保できればそんなに上げなくても大丈夫かもしれないが、その可能性は決して大きくはない。

バラ色のシナリオを描くことよりも、日本が置かれている状況をどう打開するのか、痛みを伴う「変革」の先に、どんな社会があるのか、その道筋を示すことこそ、歴史が要求するものだと思う。それを見守っているのは、世界とりわけ欧州の先進国だ。彼らも同じ問題を抱えているからである。

安倍首相の岐路の第一は、消費税の引き上げだ。内閣参与の浜田宏一氏は慎重な発言を繰り返していて、「増税見送り」の地ならしをしているようにも見える。問題は、ここで見送った場合に、果たして日本国債が売り込まれる懸念はないのかということだ。いったん売り込まれて長期金利が急上昇でもすれば、その影響は消費税引き上げによる景気の腰折れ懸念どころではない。下手をすれば、日本発の新たな危機に発展しかねない。

次の岐路はTPPだ。聖域なき関税自由化には反対を表明してきた自民党。しかし聖域を完全に残したままのTPP参加は難しい。そうなれば自民党に票を与えた、農協や特定郵便局などを何とか説得しなければならない。しかしこの二つの団体は、今回の参院選比例区で1位と2位を取った。つまりそれだけ大きな影響力を持っているということだ。安倍総理がこうした自民党の票田を危機にさらすようなことができるだろうか。

こうしてみると、今年末ごろには安倍首相の覚悟のほどが分かるのだと思う。もしそこが見えないと、選挙のない3年間は、再び日本政治が停滞してしまうかもしれない。そうなったら、日本が再浮上することはきわめて難しくなる。民主党の3年余は結果的に時間の浪費で終わった。もう日本に時間を浪費する余裕はない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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