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コラム 政治・経済

2013年06月05日

株価乱高下で分かった足元の危うさ

5月23日、日経平均は7.3%、1140円以上も下がった。そこまで順調に上がっていたし、ずいぶん強気の見方も出ていただけに、不意打ちを食らった感じだ。その日から、株価は不安定な動きをしている。一方、債券相場も大荒れだ。まだ黒田日銀総裁が期待するデフレ脱却とはいかないのに、長期金利が1%に乗ったりもした。財務省や日銀の関係者は気が気ではなかっただろう。

ここまでは順調すぎるぐらい順調だった。昨年末に安倍政権が成立し、「3本の矢」と言い出して以来、「異次元の金融緩和」「機動的な財政出動」を背景に円は安くなり、株は高くなった。今年第1四半期の成長率は年率で3.5%となり、力強さを見せつけた。

しかし、日本経済の成長を促進するような施策はまだ何も打たれていないと言ってもいい。もちろん昨年度予算の補正として組まれた13兆円は、景気に効いてくる。GDP(国内総生産)の2%を超える金額だから、今後の経済の中でそれに見合う数字は出てくるだろう。ただそれはカンフル剤の話だから、今後の日本の成長を担保するようなものではない。

この6月にも発表されるいわゆる第3の矢が本当に成長に資するようなものかどうかで、日本経済の進路は大きく変わる。中でも、最も重要なのは「規制改革」である。もともと日本の潜在成長力が高い時代なら、景気のトリガーになるような財政支出や金融緩和によって、消費が拡大。企業は在庫が減るのに伴って増産、あるいは増産のための設備投資を行った。それが景気回復である。

しかし今はそうはいかない。消費が増えると言っても、昔のように人口そのものが増えているわけではない。つまり「人口の配当」はなく、むしろ「人口(減)の負担」がある。そうすると企業はなかなか設備投資をしてまで増産に踏み切ろうとはしない。実際、今年第1四半期は年率3.5%という高い成長率ではあったが、企業の設備投資は回復軌道に乗っていない。

こうした状況の中で日本の成長力を確保しようと思えば、規制を減らして新しい産業を民間資本に創出してもらうしかないのだと思う(規制緩和というよりも、本来は規制撤廃と言ったほうがいい。なぜなら緩和と言うと規制当局のさじ加減というニュアンスが残るからである)。もちろん規制緩和と言っても安全性に関わるような規制はむしろ緩めるべきではない。国や企業の「既得権益」を保護しているような規制を撤廃すべきだと思う。

ただ問題は、規制改革は霞ヶ関に代表される官僚機構にとって、最も苦手な分野ということだ。その理由は単純である。規制こそ官僚の権力の源泉に他ならないからだ。権力があれば予算もつく。そして予算の金額は力である。さらに先輩から受け継いだ権益を失う、あるいは放り出すようなことをすれば、官僚社会では生きてゆけない。かといって、外に出ようにも、自分でポストを開拓するのは容易ではない。ある経産省の官僚が言っていた。最近、大学にポストを求める官僚が多いのは「そこしか行きようがないからです」。そういう状況に置かれた官僚が、自ら力の源泉を投げ出すのは希なことである。

同じように、官僚にとって苦手なのは、「歳出削減」である。予算は規制と並んで官僚の力の源泉だ。さらに外郭団体などへの予算配分は、自分だけでなく先輩などの将来ポストも左右する重要な問題。予算の総額削減は仕方がなくても、自分たちの仕事の領域では御免被るというのが官僚の本音と言ってもいい。実際、インターネットがこれだけ普及してきても、政府の仕事にネットを取り入れて合理化しようという動きがなかなか広まらないのは、それが自分たちの権力を奪うのではないかと恐れるからだ。

しかしもう猶予はない。安倍政権が発表する成長戦略がもし投資家や日本の経営者を納得させるようなものでなかったら、その時のしっぺ返しはかなりきついものになる。そうなると、たとえ参院選に勝っても安倍政権にとっては、いばらの道になりかねないのである。5月下旬の株価乱高下は、まさにそのことを思い起こさせる相場の神様の警告だったのかもしれない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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