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コラム 政治・経済

2013年04月05日

中国とロシア、日本の戦略とは?

日本も中国も指導部が交代したが、日中の間に刺さった「尖閣問題」というとげは抜けそうにない。中国にしてみれば、日中間に領土問題があるということを日本に認めさせれば、それで一歩前進ということになるのだろうが、今やそれだけで収まるとも思えない。

中国がなぜ尖閣にそれほどこだわるのか。それは中国という国の在り方が変わったことによる。中国はすでに食糧も資源も自給自足できる国ではない。日本と違って資源は豊かな国ではあるが、消費が急激に伸びている(というより膨張しているという言葉の方がふさわしいかもしれない)からだ。たとえば自動車。日本では年間の販売台数はせいぜい500万台だし、保有台数は8000万台ぐらい。それに対して中国は年間2000万台の車が売れる国になった。もし日本並みに自動車が普及すれば人口は10倍だから、保有台数は8億台ということになる。

そこまで行くには時間もかかる。とはいえ、中国がGDP(国内総生産)でアメリカに追いつくのは2020年ぐらいの話だ。自動車だけではない。食習慣が変わってきた。肉の消費が進むと、牛などを育てるための飼料穀物が大量に消費される。穀物そのものを人間が消費するよりも、はるかに効率が悪い。言葉を換えれば、穀物が大量に消費される。

食糧や鉱物資源を国内で賄えなくなれば、輸入せざるをえない。それが中国のアフリカに肩入れする理由だ。そしてアフリカや中近東、オーストラリアなどから資源や食糧を輸入するということは、南シナ海やマラッカ海峡、インド洋が中国の生命線になるということだ。つまり中国は、従来の大陸国家から海洋国家へ変身中だということになる。

中国がいわゆる西側諸国と価値観を共有しているなら、生命線を自分で守るということにこだわらなくてもいいだろう。しかし中国にとっては、日本もアメリカもいわば「仮想敵国」なのである。仮想敵国から自国を防衛するというのはどこの国でもやることだが、中国の場合はそれが海だというのが少々厄介なところだ。実際、南シナ海で中国が主張している領海の範囲は、近隣諸国がとうてい受け入れられるものではないし、アメリカなど「自由航行」を主張する国にとっても受け入れられるものではない。

そうした中国がやがて世界一の経済大国になる。しかも経済だけではなく、やがてアジアにおける「覇権」を主張する国になるだろう。それは当然の流れでもある。周囲に自国を脅かす国がなければ、その国は周囲の諸国に「配慮」する必要はないからだ。

周辺諸国はどうするか。当然のことながら単独では対抗できないから合従連衡が必要になる。かつて日本が中国よりも経済大国であった時代は、それほど気にしなくても良かったが、中国に抜かれてしまった以上、将来の自国の立場を強化しなければならない。そのときに考える一つの要素が、北の隣人、ロシアだ。

ロシアは日本との間に領土問題を抱え、しかも1951年のサンフランシスコ講和条約に参加していないため、日ロ間では平和条約が結ばれていない。日本はロシアが北方4島を返還しないかぎり平和条約は締結しないとの姿勢をとってきた。中国が、日本との領土問題について、ロシアに「共闘」を呼びかけたのは、ロシアと日本との間に楔を打ち込むという狙いである。

しかしロシアは同時に中国を恐れてもいる。ロシアは日本と同じように人口が減少する国だ。人口比で見れば、中国はロシアよりも10倍弱大きい。さらにロシアは天然ガスを中心とする資源国だが、資源の輸出を増やすにはロシアの東側、すなわち極東でのビジネスを増やすことが必要だ。西側、つまりヨーロッパはこれ以上ロシアへのエネルギー依存を高めることを警戒しているからである。

その意味でロシアは東で中国だけにエネルギーを売ることを避けたい。つまり日本がビジネスパートナーになってくれれば、ロシアにとっては「いい話」だ。一方、日本もロシアからエネルギーを買うことができれば、供給源の多様化を果たせるし、同時に、平和条約や領土問題への突破口を見つけることにもつながる可能性がある。

ここでもし日本が北方4島について、あくまでも全島返還にこだわり、それがなければ平和条約を締結しないという方針にこだわれば、ロシアとの関係を正常化し、中国とのバランスを保つチャンスを逸することになるだろう。その分かれ道は、もうすぐやってくる。今のところ、安倍政権は、ASEANやインドなど、民主党政権で戦略観のなかった外交をうまくやっているように見える。それが本物かどうか、その試金石が訪ロだ。

このテストを乗り切れれば、長期安定政権という日本の政治にどうしても必要なものを手に入れることができるかもしれない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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