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コラム 政治・経済

2012年03月05日

企業の成長戦略は描けているか

このところ日本企業にとって明るい話題はあまりない。日本を引っ張ってきた超優良企業であるトヨタは、世界一の座から滑り落ちてしまったし、マツダは財務体質強化のために巨額の増資をする。ソニーやパナソニック、シャープといった日本を代表する企業は大赤字となって経営の立て直しを迫られている。オリンパスは巨額の損失隠しを行って元経営者などが逮捕されてしまった。

オリンパスの事件は、他の会社とは違うと考える人が多いと思うが、根っこはあまり代わらないのかもしれない。バブルの崩壊で被った巨額の損失を表面化させることなく(つまり経営陣が責任を取ることなく)何とか埋め戻すことができると考え、損失処理を先延ばしし、どうにもならなくなったから企業買収に紛れさせて処理したのである。単純化しすぎを恐れずに言えば、やがて状況は「戻る」と考えていたということだ。

しかし世界は動いていく。日本がかつてアメリカのテレビメーカー、ゼニスを駆逐したように、韓国のサムスンやLGが世界の市場で日本メーカーを駆逐している。しかも有機ELでは日本よりもはるかに先行している。いまさら日本企業が有機ELで追いつこうとしても難しい。半導体メーカー、エルピーダは会社更生法の適用を申請した。半導体の競争に耐えるべく国の総力を挙げてつくった会社でも国際競争に耐えきれなかった。

だからといって日本の企業、とりわけ製造業はもう将来がないなどとは思わない。「ものづくり」だけでやっていけるとも思えないが、アイディア次第では展望が開ける分野は数多く残されている。問題は、新しいことに挑戦できるかどうかだと思う。

日清紡といえば日本でも有数の伝統と格式のある会社だが、そのトップである鵜澤社長がこんなことを言ったことがある。「従来の延長線上で考えることはない。従来の技術やネットワークから離れた飛び地でもやれることはやればいい」

バブルがはじけて「選択と集中」が言われるなかで、日本企業はさまざまに広がりすぎていた分野を切り捨ててきた。その決断が間違っているとは言えない。実際、日立などは得意の社会インフラに絡む部門への回帰によって収益力を強化している。

しかしもし将来的に成長力を維持しようとするなら、やはり新しい芽を育てていかなければならない。いま絶好調のアメリカのアップルだが、1990年代の後半は事実上倒産しかかっていた。それを立ち直らせ、そして時価総額で全米1位にしたのは、創業者で一時追い出されていたスティーブ・ジョブズである。彼は、自分がどのような製品が欲しいか、明確なイメージを掲げて、会社を牽引し、大成功させた。

ジョブズ自身がすぐれた技術者だったわけでもないし、ましてすぐれた経営者だったわけでもない(カリスマ経営者などと呼ぶ人もいるが、確かにカリスマではあってもカリスマ経営者ではない)。ただジョブズは、さまざまな技術を使って人のライフスタイルを一変させるような製品を発想する天才だった。そしてここが大事なことだが、そのジョブズのアイディアを承認し、会社の方針とすることができたのは、ジョブズ自身がトップに座っていたからである。

つまり日本企業で、もし社員にジョブズのようなアイディアを持っている人間がいても、そのアイディアが上に行くにしたがってつぶされてしまう、あるいは変えられてしまうというようなことはないだろうか。よくわからないから、マーケットリサーチをしてからと考えるトップはいないだろうか(ちなみにスティーブ・ジョブズはマーケットリサーチを信用しなかった。今までないような画期的な製品のリサーチをしても、調査の対象となる人々が正確な反応などできるはずがないと考えていたからだ)。

部品や生産機械の分野では日本の競争力はまだまだ強い。それは自分たちの製品の目標がはっきりしているし、改良すべき点も見えているからかもしれない。しかし消費者製品ではどうだろう。自動車も含めて本当に消費者のニーズに応えたり、あるいは消費者のニーズを創り出したりするような製品を世に送り出しているだろうか。掃除機や扇風機のような「枯れた製品」でもダイソンのようなメーカーが現れる。それならば洗濯機のようなものでも、画期的な製品を作り出すことは可能なはずだ。

そういった芽がひょっとしたら社内にあるのに、中間管理職やトップがそういった芽を摘んでいないか、それを点検したほうがいいと思う。企業の中には、挑戦して失敗した社員を表彰するところがあるという話も聞いた。挑戦して失敗すれば、そこから教訓を得ることができる。挑戦の芽を摘んでしまうと、大きな失敗はしないが、教訓をえることはできない。

日本の企業が置かれている環境は、もう20年前、10年前とはまったく変わっている。その中で、同じ発想でやっていていいのか。そこを考えなければいけないのは経営者自身である。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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