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コラム 政治・経済

2011年09月05日

また首相が代わる

8月29日に行われた民主党の代表選。新しく代表になった野田佳彦氏が国会で首相に指名され、新しい日本の顔になる。1年前後でこう顔ぶれが変わっては、外国の首脳など名前を覚える暇もないかもしれない。これで来年9月には民主党の代表選がまた行われ、遅くとも再来年の今頃までには総選挙が行われる。要するにまた1年前後で首相が代わる可能性があるということだ。

「年替わり首相」はもういい加減にして欲しいというのが国民の率直な気持ちだろうが、次の首相が次の代表選や総選挙を乗り切れる保証はどこにもない。というより乗り切れない可能性のほうがはるかに高い。どちらかに賭けろと言われたら、僕は乗り切れないほうに賭ける。

日本という国が極めて困難な局面にあることは確かだ。誰がやっても舵取りは難しい。東日本大震災の復旧・復興はなかなか進まない。通常の(放射性物質が付着していない)がれき処理すら政治の不手際もあって進捗が遅れている。まして放射性物質が含まれているがれきや土となったら、どこの自治体でも引き受けることはしない。

青森県六カ所村の核燃料再処理施設にはもちろん放射性廃棄物の貯蔵施設があるが、そこに持ち込めばたちまち満杯になってしまうだろう。そうなったら本来の使用済み核燃料の貯蔵ができなくなる。だから菅首相は福島県知事を訪ねて、福島県内に仮置き場を設けると通告した。そして永久に貯蔵するわけではないとしたが、さりとてどこで最終処分するかは決まっていないし、次の内閣でも決められまい。

原発事故の後処理ひとつとっても正しい解答などない。もちろんそれだけではない。十年以上も日本経済を蝕んでいるデフレからどう脱却するのか、日本の成長戦略をどう描くのか、財政をどうやって再建するのか、どんどん増える社会保障費用をどうやって賄うのか、社会保障の給付をどうするのか、多国間貿易自由化を進めるのか、などなど選択を迫られる問題は山積みである。

民主党政権になってからというもの、こうした問題にはいっこうに解決策が示されなかった(もちろん自民党政権も同様に目をそらしていた)。菅首相は、退陣表明会見で税と社会保障の一体改革に道筋をつけたと胸を張った。しかし、消費税の引き上げこそめどを立てたものの、もう一方の社会保障を持続可能なものにするための給付制限には触れずじまいだった。

小泉改革に全面的に賛成するわけではないが、国民にも痛みを要求しつつ改革を進めようとしたという意味では評価できると思う。劇場型と言われようが、ワンフレーズポリティックスと言われようが、それで国民の支持を獲得したことは事実である。しかし民主党は(いまの自民党も同じことだと思うが)、労組という「守旧派」を身内に抱えているだけに「痛み」を明らかにするのを嫌がる。

アメリカでもヨーロッパでも、政治が決断できないために財政や経済が混乱している。英エコノミスト誌は、オバマ米大統領やメルケル独首相を、政治家が本質的な問題に目を向けない「日本」みたいになるのかと揶揄した。少子高齢化や人口減少、そして積み重なる公的借金という面で、日本は先進国の先頭を走っている。別の言い方をすれば、世界を見渡しても、日本の問題を解決する妙手を発見した国はどこにもないということだ。

だからこそ、いま日本の政治家ができることは、問題の本質を見極めることも、その解決策を見いだすこともそう簡単ではないことを国民に率直に説明することしかない。そして国民に負担を求め、その負担にはやがて見返りがあることを納得させなければならない。

それを今の民主党に求めるのは無理だと思う。なぜなら改革しなければならないということで約400人の国会議員、そしてその後援会がまとまることなどありえないと考えるからだ。そうである以上、野田首相も早晩行き詰まるということになる。

そうなって欲しいとは思わない。僕の悲観的な見方が外れてくれれば、つまり新首相が少なくともいくつかの問題で解決策を示し、国民的な(その前に党内的な)支持を得られればいいと思う。しかし残念ながら、その可能性はあまり高くはない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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