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2009年01月09日

福沢諭吉の「ながら運動のすゝめ」

フィットネスクラブオーナーの巨体にビックリ
私は日本に米国のフィットネクラブスシステムを導入し、黎明期から数多くのクラブを事業化させ成功させてきたが、そのビジネスモデルのイロハから教えた経営者に、十数年ぶりに渋谷でばったり出会ったときのこと。

眼の前の彼は、おへそ周りが膨らみすぎて上着のボタンはかからず、ベルトがかなり下腹部にまでずり落ちた「超メタボ腹」で、あごと首筋の境目がなく、おそらく100kgを超える巨体になっていた。

「いやー、まずいですね、人に運動を勧めておきながら自分は全く運動をしないというのでは・・・」
「それにしても長野さんはスリムですね」と盛んにお腹をさすり、あごやほほに手をやり、あまり気にしているようなので、目のやり場に困り、立ち話もそこそこに別れた。

そのとき「大丈夫かな」と彼の健康状態に不安を感じたが、後日、彼が心筋梗塞で倒れたという訃報を新聞で知った。社会的地位、名誉、財産も確かに大事だが、改めて、何はなくてもまず健康だと実感した。

「医者の不養生」「紺屋の白袴」とはよく言ったもので、そのフィットネスクラブオーナーに限らず、肥満研究者、スポーツ医科学者、栄養学者、行政の健康づくり担当者がメタボであることはよくあることだ。逆に言えば、それほど、運動習慣は一筋縄ではいかないということなのだろう。

福沢諭吉も日常ながら運動
今から10年ほど前に著した「日常ながら運動のすすめ」は、福沢諭吉の「学問のすゝめ」にあやかってつけたものである。21世紀の健康づくりの意識改革は、明治時代の学問に対する意識改革に匹敵するほど重要事だと思ったからである。
ところで、その福沢諭吉も、実は日常ながら運動精神で健康づくりを実践していたいうエピソードを紹介しよう。

明治3年、発疹チフスと伝えられる病に冒された福沢諭吉は、2、3年療養しても、なかなか元に戻らないために、次のように考えを改めたと記している。
「此方から媚びるから病は段々つけあがる。自分の身体には自分の覚えがある。真実の病中にはもとより医師に服することなれども、今日は病後の摂生より外に要はないから、自分で摂生を試みましょう」

「そもそも自分のもとは田舎氏族で、少年のとき如何なる生活をしていたかと言えば、麦飯を食らい唐茄子の味噌汁を啜り、衣服は手織木綿のツンツルテンを着て、フラネル(毛織物)なんぞ目に見たこともない。この田舎者が開国の風潮に連れ東京に住居して、当世流に摂生もおかしい。田舎者の体の方が驚いてしまう」

「すなわち、今日、風邪を引いたり熱が出たりしてグズグズしているのは摂生法の上等に過ぐる誤ちであるから直ちに前非を改め、ただ食物ばかりを西洋流に真似て好き品を用い、その他は一切むかしの田舎氏族に復古し」

「運動には米搗(こめつき)、薪割(まきわり)に身を入れて、少年時代の貧乏世帯と同じようにして毎日汗を出して働いている中に、次第に身体が丈夫になって、風邪も引かず発熱もせぬようになってきました」

「今では宵は早く寝て朝早く起き、食事前に一里半(6km)ばかり芝の三光から麻布古川辺の野外を少年生徒と共に散歩して、午後になれば居合いを抜いたり米を搗いたり一時間を費やして、晩の食事もチャント規則のようにして、雨が降っても雪が降っても年中一日も欠かしたことはない」

「この運動摂生が何時まで続くことやら、自分で自分の体質の強弱、根気の有無を見ています」(「福翁自伝」岩波文庫)

ここには福沢諭吉の実証的な健康観と具体的な実践方法が如実に現れている。

理想体重を維持した福沢諭吉
ちなみに、福沢諭吉の身長は五尺七寸三、四分(174cm)で体重は、生涯十七貫五百目前後(66kg)だったそうでだから、「BMI・21.8」で男の理想的な体重を維持していたことになる。 
お札の当人は勝手に取り上げられ苦笑いしているかも知れないが、確かに肖像画をよく見ると、顔、首筋のたるみはなく、贅肉のないキリリと引き締まった、精悍な体つきだなと容易に想像できる。

日常ながら運動は、300年前の江戸時代、貝原益軒の「養生訓」に刺激されたものであるが、そのことを語ると多くの方が「そんな昔の健康法が今でも通用するのか」と驚きを隠さない。しかし今日の前が昨日で、それが1年、10年、100年、300年とさかのぼれば、その延長戦上に福沢諭吉や貝原益軒に自然につながっていくのだ。

21世紀は過去に類を見ないほどの生活スタイルの激変にさらされている時代だからこそ、簡潔で余計なものが一切混じらない健康哲学が必要とされるのだ。

シンプルだけれどもやってみると奥が深い、それが日常ながら運動だと心得よ。

長野茂

長野茂

長野茂ながのしげる

株式会社フィットネスビジネス研究所代表取締役

「日常ながら運動」のパイオニア。忙しい現代社会で自分のライフスタイルに無理を上乗せするような、特別な健康づくり、ダイエットはなかなか長続きしません。どんなに仕事が忙しくても、どんなに不規則な生活をして…

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