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2010年10月20日

人の礎

今年も紅葉の話題が各地から届く季節になりました。
斑鳩の里法隆寺の境内もまもなく紅葉が美しい季節に近づいています。

奈良の法隆寺、薬師寺の宮大工として有名な西岡常一(にしおか つねかず)棟梁がいらっしゃいますが、その著書『木に学べ 法隆寺・薬師寺の美』という中で、「塔を大木のようにしっかりたてるためには、地面がしっかりしていなくてはなりませんな。五重塔は相輪頂上まで、三十二メートルほど、総重量が百二十万キロもあるんですよ。
これが千三百年も沈むことなくたっていたのは、がっしりとした基礎づくりがあったんです。どうしたのかといいますと、塔の下にある地面にそのまま基壇をもりあげるんではなくて、地面を、地山といいまして固いしっかりした層まで掘りさげるんです。これは強く、しっかりした粘土層で地表から五尺(1.5m)ほど下です。ここまで掘りさげて、固い地山の上に良質の粘土を一寸(3cm)ぐらいつき固め、その上に砂をおいて、つき固めというのをくり返して地上から五尺上まで基壇をつくりあげてあるんです。塔や堂はこうしたしっかりした土台の上にたっとるんです」とおっしゃっています。

 約千三百年もの長い年月の間には、記録にあるだけでも近畿地方には、四十回以上の大地震があったとされていますが、地震や台風にしっかりと耐え続けて今があります。いかに基礎工事が重要であるかということがわかりますね。

 この西岡さんのお話を読みながらテレビ東京時代看板番組の夕方のニュースキャスターを務めていた頃のことを思い出していました。開局25周年の目玉番組としてスタートしたニュースのキャスターに抜擢され、嬉しさと共にその重責に入社したばかりの私は、日に日に痩せていきました。その姿を見た当時の局長が、私を呼んでこう言いました「おまえは、具のことまで考えなくてもよいから美味しいご飯になればいいんだよ。ご飯さえ美味しくたけていたら、その上に乗る具が何であろうと美味しいものだからね」と。その言葉を聞いて、スーッと気持ちが楽になったことを、今でも脳裏に浮んできます。確かにご飯が美味しければ、その上に何が乗っても美味しくいただけるものです。

 人も建物と一緒、人が人としてしっかり立つには、基礎、土台が大切になります。
基礎となるものは、下からしっかりと支えるもので、人の目に触れることはあまりありません。とかく人の目にとまるのは覆い隠されたものではなく、目に見えるもので評価しがちですが、しっかり見なければならないのは、見えない根っこの部分ではないでしょうか。建物がたった時点で見えなくなる基礎工事の土台づくりそして、具の乗らない白いご飯の部分が実は一番重要になります。一度たってしまった建物や、具が乗ってしまったご飯は、やり直しがききません。

「三つ子の魂百までも」ということわざがありますが、人の人格形成の基礎工事は乳幼児期がとても大切です。
物に恵まれお金を出せばすぐに手に入る時代の中で、とかく子どもがかわいいからと物を買い与え、公共の場で子どもが騒いでいてもニコニコしながら子どもを見つめる親の姿をこの頃よく目にします。これは、愛情ではありません。本当に子どもが愛しければ悪いことはしっかりと注意し、人として成長する土台造りの時代を大人たちが、寄り添いながらしっかりと作り上げていかなければなりません。子どものことを真剣に思うのであれば、人としてしっかり立てるように礎をしっかり築いてあげて下さい。礎がしっかりした子は、人生において何があろうともぶれることはありません。

 紅葉の美しさは、一年を通しての風や雨、太陽など諸々の調和によって生まれる美しさです。どれかが偏っていても美しい色合いはできません。しかし綺麗な紅葉をつけるのも幹がしっかりと大地に根づいているからです。
人も長い人生の中で、様々なことがあります。だからこそそれぞれの礎をしっかりと構え、どんな時もぶれることなく歩みを進め、それぞれの味わいのある色づきを最後には見せられるようにしていきたいものです。
子どもたちには、幼い頃にその礎をしっかり築いてあげて下さい。

春日美奈子

春日美奈子

春日美奈子かすがみなこ

フリージャーナリスト

國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。

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