ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム 教育

2011年06月20日

虐待と非行の関係

 最近、子どもの虐待の問題が大きく認識されるようになりました。
今の子どもの危機は、非行や問題行動を起こす加害者としての側面だけでなく、大人社会からの被害者としての側面も急激に増えています。

 実はこの虐待と非行は、密接な関係があります。子どもの問題行動は病める社会の反射鏡であるという言葉があるように、その時々の時代のひずみや様子を反映しています。その一つの現象が、虐待であり、非行であるように思います。
 更正施設に入所してくる子どもの多くが虐待の経験を持っています。虐待を受けていた子どもが、少し年齢が高くなると我慢するだけでなく自分を守ろうとする行動をとるようになりますが、それが家出です。家出は、虐待をおこなう者からの逃避でもあり、しだいに逃避が、社会の枠からはずれた不適応な色を強くしていき、これがやがて非行に結びついていきます。

 わが国の子どもの自尊感情は、非常に低いとされています。虐待経験は、子どもの心に大きな傷を刻みます。自分は、大切にされない、価値のない人間だとし、自分を大切にしなくなってしまうのです。自分を大切にできない人間は、他人も大切にすることはできません。暴力で育てられた子どもは、暴力を持ってコミュニケーションをとるようになってしまいます。
 子どもと養育者との信頼感は、守られ、安全、安心感が与えられることの積み重ねによって形成されていくものですが、この信頼関係を崩壊させるような体罰や暴言は、子どもの心に不信感を植えつけることになります。

 愛して欲しかったのに愛されなかった。助けて欲しかったのに、見捨てられた。抱いて欲しかったのに、殴られた。認めて欲しかったのに、無視された。そのたびに、幼い心に傷がつけられていきます。その怒りと不安、虚しさがやがて膨らみ、自分も人も信頼できなくなってしまい、自傷行為や、逸脱した行為に走るようになってしまいます。「耐え難い苦しみの中で子どもたちは生きてきた。非行は、それが恨みの世界に行かないための、必死の抵抗のように思える」と、ある自立援助ホームのスタッフの言葉が脳裏に浮んできます。
子どもは、どんな時も親を思い、親を求めています。今の社会は、大人も非常に生きづらい世の中で、大人自身も自分を守ることで、精一杯で余裕のない社会になっていることは、否めません。大人の社会が、一人一人が大切にされる世の中に変えていくことが大切になるように思います。親が生活上の問題や子育ての問題を抱え込むようになると、子どもに対して十分な愛情や関心を注ぐことが難しくなります。親の精神的な負担を軽減し、子どもに余裕をもって向き合うゆとりを回復するためには、地域の交流が重要な位置をしめるように思います。虐待は、親と子どもの信頼関係の修復が重要な鍵となりますが、受けた傷をいやすには、時間もかかります。子どもが育まれる環境づくりには、地域の助けが必要であり、支えあうという関係を築きながら予防的支援を高めていくことが、重要になるように思います。虐待が非行へと繋がらないようにするためにも、子どもを受けとめ、支える人がいる場所やサポート態勢を社会の中にも作っていくことが必要になります。
子どもが、子ども時代を安心して過ごせる環境をつくることは、大人の責任ではないでしょうか。
そして、何よりも私たち大人が忘れてはいけないことは、子どもに接する大人たちが、子どもを一人の人間として尊重する姿勢をもつことが大切に思います。
大切にされていると実感できると、人は、未来に希望をもてるからです。大人も子どももそれぞれが希望を持てるよう、社会を正すことも重要な視点ではないでしょうか。

春日美奈子

春日美奈子

春日美奈子かすがみなこ

フリージャーナリスト

國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。