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コラム 教育

2011年05月20日

人は人により人になる

  てぃんさぐぬ花や              ホウセンカの花は
  爪先(ちみざら)に染(す)みてい    爪先に染めなさい。
  親(うや)ぬゆし事(ぐとぅ)や       親の言うことは、
  肝(ちむ)に染みり              心に染めなさい。

  天ぬぶり星(ぶし)や            天の群生は
  ゆみばゆまりゆい              数えようと思えば数えきれるけど
  親(うや)ぬゆし言(ぐとぅ)や       親の言うことは、
  ゆみやならん                 数えられない。

  夜はらす舟(ふに)や           夜、沖に出る舟は
  にねふぁ星(ぶし)見(み)あてぃ    北極星が目当て、
  我(わん)なち親や             私を産んでくれた親は
  我(わん)どぅみあてぃ ぬ覚めて     私が目当て。

  宝玉(たからだま)やてぃん       宝石も
  みがかにばさびす             磨かなくては錆びてしまう
  朝夕肝(あさゆちむ)みがち       朝晩心を磨いて、
  浮世(うちゅ)渡ら             世の中を生きていこう。

 これは、沖縄を代表する教訓唄、『てぃんさぐぬ花』の一節です。
てぃんさぐぬとは、ホウセンカのことで、親を大切にしなさいよ。心を磨くことを忘れてはなりませんよ。と、人として、忘れてはならない大切なことを、昔の人たちは、このように唄に託して伝えてくれています。
姿は見えねども、先人たちの純粋で、汚れのない心の豊かさが垣間見られ、何度もこの詩を読み返してしまいました。
昔の人たちは、自分の苦労や経験をもとに、多くの教えや諭しを、詩や唄に残してくれています。
今、このように教え導き、諭すことができる大人が少なくなったように思います。

 子どもは、周囲の大人たちの態度や行動を見習うことによって、色々なことを身につけていきます。躾の不在、人づくりのための文化モデルの欠落により、日本人の美徳とされた「恥らいの文化」がいつのまにか遠のき、電車の中で、へいきでメイクをする女性が出現するようになりました。更に恐ろしいことは、この女性たちが、やがて結婚して人の子の親になるということです。常識やマナーを、どのようにして教えていくのでしょうか。

 かつて大家族が多かった頃、家庭の中心にお年寄りがいました。弱い者を大切にし、尊び、人生の先輩として、色々な事を学んできたように思います。核家族が増え、家庭の中にお年寄りの居場所がなくなりました。古き良き時代の風習や、行事など伝え残さなければならない大切なことは、このお年寄りたちから伝え、導かれたものです。
 今の日本は、このお年寄り達を大切にしていないように思えてなりません。今回の震災で、最も不自由な思いをされているのは、その地で生き、頑張って礎を築かれた70、80、90代の日本を支えてきた人たちです。日本の福祉政策は、いつの時代も鈍い足音で進んでいます。声をあげられない人達の思いを救い上げ、共に生きることが大切になっているように思います。

 昔の人達は、日々の生活を通して、学びがあり、そこから教えがあり、人として大切なものは何かを、自然と共に生きる中で生み出し、それを言葉に託して、残しています。
この「てぃんさぐぬ花」のように、短い文章の中にも人の心に訴えかけ、共鳴させることができるのは、その言葉が、生きた人間の経験から生まれた言葉だからです。
感動や諭しのある言葉や教えは、時代を超えて、人から人へと伝え継がれていくものです。
本を読まない、人とのコミュニケーションが苦手な子どもが多くなった今、学びや気づきをどのように諭せばよいのでしょうか。一番身近に居る者が、言葉や生きる姿を通して伝えていくことが大切になります。

 家族の中での10年ほどの子ども時代は、子どもの人格形成と育ちに大きな影響を与えます。人間らしい感情、情緒、様々な生活習慣や行動は、家庭における愛情教育で育てられ、終生その人にまつわるものです。幼少時に身についたものほどこわいものはないと思います。
 どんな子どもも、人間や大人を見る、素晴らしいまなざしを持っています。そのつぶらな瞳が求めているものに応えるために、大人は共に歩みを進め、良い出会いを経験させてあげなければなりません。この世の中には、子どもたちに伝えたい多くの大切なことがあります。それを強制的ではなく、自然に子ども自身が心に心地良く取り込むことができるように、世代を超えて様々な人達との触れ合いの中で育んでいく機会をつくってあげることが必要ではないでしょうか。子どもは、向き合う大人次第でどうにでも変わるものです。私たち大人も人生の大先輩であるお年寄りたちから多くのことを学ぼうとする姿勢を持ち、学んだことは、次に子どもたちにしっかりと伝えていくことが、人として忘れてはならないことを守り続けることになるように思います。この『てぃんさぐぬ花』の教訓唄のように。
 人は人により人になります。子どもを、賢くすることだけにとらわれず、感性の教育に目を向けることが大切なことではないでしょうか。

春日美奈子

春日美奈子

春日美奈子かすがみなこ

フリージャーナリスト

國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。

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