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コラム 教育

2011年01月20日

徳は才に勝る

 今年の新成人は、124万人。
大人の仲間入りした彼らは、今何を思いこれからの未来を見つめているのだろう。他人を押しのけ出世の道を切り開いていくことが、あまりにも当然のこととなっている現代社会において、生きづらさを感じている若者は多いと思う。道徳面と学力面の両立は理想であるが、現在は学力主義に走る傾向が強く、本来忘れてはならない人としての情けや思いやり、愛というものが疎かにされている。

 教育の語源とも言われる「パイディア」(Paideia)という言葉は、紀元前5世紀、ソクラテスの時代に生まれたギリシャ語で、本来は「子どもを善くする」という願いの中から生まれたもので、それが目的で始まったものです。「子どもを賢くする」ことにとらわれず、「子どもを善くする」という本来の教育の意味をやがて人の親になる新成人は忘れることなく子どもを育てて欲しい。そして、生きていくうえで才は大切なものですが、人として一番大切なことは、才能や、知識を、自分の利益だけを追求することに使うのではなく、人につくすこと、人の役に立つことに使える人間になることそして、人に対する優しい愛情をもつこと。それを心に持った大人として歩みを進めて欲しい。
 人の命はこの世の何ものにも代えがたく、重い、尊いものであり、そこには同じ人間としての尊敬と愛情がいつももたらされるものである。その心をどうか忘れないで欲しい。

 年末から年始にかけて、タイガーマスクの主人公”伊達 直人”の名前で、児童養護施設の子どもたちに、ランドセルが送られている。それが、今年に入り更に全国に広がり善意の温もりの輪が繋がっている。自分の身分を明かすことのない実に謙虚な善意である。その静かな姿勢に心が温かくなるとともに心から頭が下がる。希薄な社会と言われている中で、こういった心の優秀な人がいるということを、私たち大人は謙虚に受け止め、それぞれができる範囲で人の役に立てることを考え実行する姿勢を持つこと、それがひいては子どもたちが、直接見て学ぶようになり、自分だけではなく他人のことも考えることができる子どもに育てることに繋がるように思う。

 児童養護施設は全国に575ヵ所あり、入所児童数は約3万594名ともいわれている(平成22年3月)。様々な境遇の中で、甘えたい盛りの子どもたちが、寂しさを小さな心に押し隠して懸命に生きている。
 家庭の教育力がなくなってきた今、福祉の窓口の充実や、子どもが子どもらしく生きられるため、そして伸び伸びと一人一人の子どもの芽を伸ばすために、社会はこの土台となる部分に目を向けて、子どもを救い上げる努力をしていく必要があるように思う。

 国の福祉政策は、相変わらず鈍い足音で進んでいる。福祉の現場とそこに暮らす子どもたちに光があたることが少ないのが現実である。様々な境遇の中で、どこにも行き場のない子どもたちが、今なお数多く存在している。そうした子ども達を周りがどう援助できるかを考えていくことが必要に思う。子ども手当ても大切だが、国は、厳しい財源の中で子どもたちを支え、ともに歩き続けている子どもの福祉施設の場に国の予算をさらにあて、子どもを育んでいく取り組みが今後更に重要になる。全ての命は重く、尊いものであり、全ての子どもが健やかに暮らし幸せになる権利がある。そのことを、忘れてはならない。
 なに不自由なく生活する中で送られたランドセルは、それだけの物でしかないかもしれないが、不自由な生活の中で送られた今回のランドセルは、子どもの心に温かな光を投げかけ、ランドセル以上に形に見えない大切なものが届いたように思う。様々な境遇に負けずに真っ直ぐに人生を駆け抜けていって欲しい。
 徳は才に勝る。伊達 直人は、人として忘れてはならないことを教えてくれたように思う。
 新しい年、国政がタイガーマスクの伊達 直人のようになる日が早く来ることを願う。

春日美奈子

春日美奈子

春日美奈子かすがみなこ

フリージャーナリスト

國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。

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