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コラム 環境・科学

2012年05月15日

3.11後の大変化 (2)

■大きく変わった原発への認識

15年位前、名古屋テレビでアナウンサーをしていた時、東海地震発生時の取材に備え、中部電力の浜岡原子力発電所を訪れました。定期点検中の原子炉建屋にも入り、原子炉の下を見たり、上を歩いたり、核燃料がプールの底で青い光を発している様子を見たりしました。その際は、何重ものチェックを受けて入り、しっかりした管理が行われている印象を受けました。また、資料館で厚さが2メートル、鉄筋の太さが4センチもある、建屋のコンクリート壁の断面を見て、相当な地震の揺れでも、建屋が崩壊するような事はないだろうと感じました。

ただし、建屋は大丈夫でも、配管が損傷したり、継ぎ目がはずれたりして、放射性物質が漏れ出す可能性はあるのではないかと考えました。
それでも、制御棒が入って核反応さえ止まれば大丈夫だと思っていましたから、広範囲に大きな影響が及ぶ事はないのではないかと感じていました。
しかし、そうした原発に対する認識は、3.11以降、大きく変わりました。

■失われた原発への安心感

一番大きかったのは、原発は制御棒が入っても、冷却が十分にできないと崩壊熱によって、メルトダウンが起きると分かった事です。もちろん専門家は知っていたわけですが、ほとんどの人は知らなかったでしょう。

これによって、原発は原子炉も使用済み核燃料プールも、とにかく冷やし続けなければならない事が分かりました。主要な配管に深刻な破損が起きて冷却水が漏れる、全電源が失われる、継続的な冷却水の供給ができなくなるといった事のどれかが起きれば、メルトダウンに繋がっていく可能性があるという事で、福島第一原発ではそれが実際に起きたわけです。原発に対する安心感は大きく損なわれました。

■想像を遙かに超えていた原発のリスク

また、特に日本の原発が抱える、巨大な危険性も明らかになりました。日本では一つの場所に集中して何基もの原発が並んでいます。福島第一原発の場合は6基です。しかも、大量の使用済み核燃料も原発の建屋内や近くの貯蔵プールに置いてあります。

昨年4月12日夜の記者会見で東京電力は、事故前に福島第一原発に存在したそれらの放射性物質の総量を、10の20乗ベクレルのオーダーだと明らかにしました。これは、「京(けい)」の1万倍で、「垓(がい)」という聞き慣れない単位になります。
チェルノブイリの原発事故で放出された放射性物質の量は、10の18乗のオーダーで、広島型原爆の約500発分と言われています。その100倍ですから、5万発程度にあたる計算になります。今回の福島第一原発の事故で出た放射性物質の量は全体の1%程度だと考えられ、その内の7~8割は海に向かったと思われますが、それでも、広範囲に影響を与えています。

もし、福島第一原発のどこか1か所でも本格的な再臨界が起きていたら、大量の放射線が出て、とても近寄れなくなり、すべてを放棄して逃げるしかなくなっていたでしょう。菅前総理が懸念していたように、東日本の広い範囲が住めない場所になる可能性はあったわけです。
各原発によって量の違いはあるでしょうが、複数の原子炉が集中していて、大量の使用済み核燃料を抱えているという、福島第一原発に似た状況にあるところは多く、もし、陸地の西側にある原発で深刻な事故が起きた場合、狭い日本は、国の存続が危ぶまれるような事態に陥る可能性がある事がわかったのです。

■数々の問題、そして失われた信頼

そして、これは以前から指摘されていた事ではありますが、高レベル放射性廃棄物を最終的に、どこにどう処分するのかが決まっていない問題や、発電コストが、国や電力会社が言ってきた程には安くないという問題、使用済み核燃料を再処理してまた燃料として利用しようという核燃料サイクルが、莫大な費用がかかるわりにうまくいっていない問題もあらためてクローズアップされました。

そして何よりも、こうした原発を推進し、扱う、国や電力会社に対する信頼が失われた事は大きな変化と言えるでしょう。
巨大な津波が東北地方の太平洋側を襲う事が予想されていたのに、迅速で適切な対策をしていなかったり、十分ありうる事なのに、全電源喪失や冷却水喪失の際の実践的対策をとっていなかったり、特に当初は十分な情報提供をしなかったなど、挙げだせばきりがない東京電力を筆頭に、まったく監督不十分だった原子力安全保安院、「絶対に水素爆発は起きません」と委員長が菅前総理に断言した、知識不足の原子力安全委員会、放射性物質が風に乗ってどう流れるか計算していたのに公表しなかった文部科学省などなど、国民の信頼を失わせる行動は枚挙にいとまがありません。

そして今も政府は、福島第一原発事故の実質的な収束も、事故原因の究明もまだで、各原発の安全対策も、計画だけで実施されていないものがかなりある中、再稼働に前のめりになり、国民はますます不信感を募らせています。

こうした事を考えると、日本において原発は、新設増設は非常に困難、運転延長も難しく、再稼働すら不透明となり、エネルギーの主力の一角として頼っていく事はできなくなったと判断した方が良いでしょう。

そこで大切になってくるのが、「創エネ」と「省エネ」ですが、これらの話は次回以降に。

富永秀一

富永秀一

富永秀一とみながしゅういち

環境ジャーナリスト

私はアナウンサー時代から、環境に関する番組を制作してきました。現在は“無理なく続けられるエコライフ”をメインテーマに、テレビ番組制作、ネット放送、書籍・記事執筆等により情報発信中です。講演では、環境・…

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