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コラム 環境・科学

2010年11月25日

国際会議の流れを決める途上国と新興国

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が先月名古屋で開催されました。多くの生物種の絶滅の危機が叫ばれていますが、生物の多様性を護るためには全地球的な視点に立ち、国際協力の下で生物の遺伝子レベル、種レベル、生態系レベルでの多様性を保護していくことが必要です。COP10を振り返り、最近の環境問題に関する世界の動向を考えてみます。

【生物多様性のめぐみ】
 
地球上には、細菌のような小さな生物から象やクジラのような大きな動物まで、多数の生物が生息しています。多様な生物によって地球上の生態系が形成されており、生態系こそが自然環境そのものと言えます。私たち人間は、多様な植物や動物が作り出す豊かな自然の恵みを享受してこの地球上に棲息しています。
 生物の多様性によって私たち人間が受けている恩恵は、次の四つの機能に分けることができます。
(1)維持的機能:水や栄養の循環、土壌の形成・保持など、人間を含むすべての生物種が存在するための環境を形成し、維持する機能。
(2)調節機能:汚染や気候変動、害虫の急激な発生などの変化を緩和し、災害の被害を小さくするなど、人間社会に対する影響を緩和するなどの環境の調整効果。
(3)供給機能:食料や繊維、木材、医薬品など、私たち人間が衣食住のために生態系から得ている様々な恵みの供給。
(4)文化的機能:レクリエーションの機会の提供、美的な楽しみや精神的な充足を与えるなど、生態系がもたらす文化や精神の面での生活の豊かさの供給。

【生物多様性COP10】
 
COP10の最終日、先進国と途上国、新興国の利害が対立して決裂の可能性がある中で、日付が変わる深夜まで討議が行われ、動植物の遺伝資源の利用と公正な利益配分ルールを定めた名古屋議定書が採択されました。
 昔の国際会議では、先進国間で方向を決まりますと、大体その方向で会議は進められました。途上国も先進国の方針に従っておけば、経済援助がもらえるなど何かプラスになるであろうという感じでした。しかし、現在では国際会議の様子が変わってきています。先進国の望む方向に議論はなかなか進みません。途上国は時に過激な論理を展開し、先進国から可能な限りの譲歩を引き出そうとします。
 国連総会をはじめ、国際的な会議では大国も小国も皆一票ずつの議決権を持ちます。中国や米国のような大国でも一票です。COP10名古屋会議をどうしても成功させたい日本政府は、途上国の生態系保全へ支援金1630億円の提供を約束しました。失敗を恐れた日本が、名古屋会議の成功をお金で解決した感が否めません。
 さて、薬品の中には生物の遺伝資源から製造されるものがあり、とりわけ植物から作られることが多いです。例えば、抗生物質のペニシリンはアオカビが産生する物質です。
 全世界の生物種の半数以上が熱帯雨林に生息していると言われており、熱帯雨林は遺伝資源の宝庫といえます。ボルネオで発見された樹木の成分からエイズ治療薬が、マダガスカル島のニチニチソウの成分から抗癌剤が、中華料理の香辛料八角からインフルエンザ治療薬であるタミフルが作られます。
 抗がん作用があると特定された植物の70%は、熱帯雨林に生息する植物だと言われています。このように様々な生物資源を利用した製品の世界の市場規模は、45兆円~70兆円と見積もられています。医薬品は一般に高価であり、途上国の遺伝資源から開発された薬品であるにも関わらず、途上国の人々には容易に入手できないという状態に大きな不満があります。

【環境問題の今後の動向】
 COP10において、遺伝資源の利益配分をめぐり、多くの利益還元を求める原産国側の途上国と開発側の先進国とで激しく対立しました。さらに、アフリカ諸国は、植民地時代にまで遡って過去に持ち出された遺伝資源から開発された新薬などの利益還元を主張しました。それに対して先進国側は議定書が発効される前の事に関して利益還元はありえないと強く拒否しました。
 昨年、コペンハーゲンで京都議定書以降の地球温暖化に対する国際的な取り組みを決めようと言う会議が開かれましたが、やはり先進国と途上国の利害が激しく対立し、結局重要な事は何も決まらず閉幕しました。18世紀の産業革命以後、とりわけ第二次世界大戦以降に先進国による大量の化石エネルギーの消費が現在の温暖化を招いたという認識が途上国あります。
 中国やインドなどの新興国は、先進国が達成した経済成長を我々も果たしうる権利があるという考えが根底にあります。実質的に世界第2位の経済大国となった中国は、しばしば先進国と対立する途上国の後ろ盾となります。環境問題の解決には国際的な同意形成と協力は不可欠です。今後は、「途上国の強気の主張」と「中国の発言力の増大」、このような状況の中で物事が進んでいくと思われます。
 11月29日からメキシコで温暖化に関する国際会議が開催されますが、残念ながらここでも世界が望んでいるような明確な合意が得られないであろうという状況です。
 近年の国際動向を見ていますと、今ここで先進国が戦略を根本的に再考しなければ、環境問題の解決は永遠に果たされないのではないかと私は感じています。地球温暖化など、多くの環境問題は先進国の経済発展に伴う資源の大量消費と廃棄物の大量廃棄の結果が大きな要因です。先進国が過去の歴史を振り返り、どのような答を出すかが注目されます。ただ、厳しい経済状況が今後も続くと予測される中、日本も含めた先進国は経済的な余裕は益々小さくなっています。
 こういうときこそ、原点に立ち返り、人類の叡智もって解決に望むべきときではないかと思います。具体的には、環境汚染と自然破壊における世界の歴史を精査し、途上国も先進国も互いに納得できる考え方や思想、そして対処法を新たに構築しなければなりません。この分野で日本の大きいリーダーシップを私は期待しております。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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